漫画感想記24冊目
かつて、この地球には大変動があった。大変動から生き残った人々は地球を永遠に続く星にするために環境の良い土地を動植物にゆずり、人々は最果ての地にドームポリスを建造し、そこに住まうようことにした。それから幾星霜。極寒の地ウルグスクのドームポリスでは、住み良い地を目指した人々の大移動、エクソダスの徴候があった。ウルグスクを管轄下におくシベリア鉄道はエクソダスを阻止するため黒いサザンクロスのゲインを捕らえ、関わりのないゲーマー、ゲイナーも冤罪で捕えてしまう。二人の邂逅によってウルグスクの地で大いなるエクソダスが始まろうとしていた。【アナ姫の勉強している場面から引用しつつ後半部は自作】
登場人物
ゲイナー・サンガ一
ゲームチャンピオン、ゲイナー・サンガ一。エクソダスに反対的であった両親が推進派によって殺害された過去を持つ。OVERMAN ARENA(オーバーマンアリーナ)というゲームで王座防衛を200回達成、キングの称号を与えられるほどの腕前を持ち、現在はゲームの賞金で生活している。学校もネット教育のカリキュラムで済まし人付き合いも少ないため、友達と呼べるのは同じゲーマーのシンシアぐらいである。エクソダスを毛嫌いしていたが、エクソダスを企んだとして冤罪で牢獄に入れられ、投獄されていたゲインと出会う。ゲインが引き起こすウルグスクの大規模エクソダスに巻き込まれ、否応なしにエクソダスに関わるようになる。
ゲイン・ビジョウ
黒いサザンクロスの二つ名で呼ばれる狙撃手、ゲイン・ビジョウ。吹雪の中、アンチマテリアルライフルで2km先への狙撃を成功させる凄腕の持ち主。エクソダス請負人として名を馳せており、ウルグスクのエクソダスをデザインし、ウルグスクの居住エリアそのものを移動させる大規模エクソダスを始める。使えるものは何でも使い、ウルグスク領主のメダイユ公爵の娘、アナ姫を誘拐して人質とし、オーバーマンの操縦に適性を見せるゲイナーを焚きつけることでエクソダスに協力させるなど、目的のために手段を選ばない。また、自らもS.E.(シルエット・エンジン)を駆って前線に立つ。数多くの肩書を持つ謎多き人物であるが、本名はシャルレと言い、フェリーペ侯爵家の末裔にあたる。
サラ・コダマ
ウルグスク自警団ガウリ隊の隊員、サラ・コダマ。勝ち気ながらも気さくな性格の孤児院出身の少女。雪しか降らない枯れた土地を離れ、緑や海のある地を目指して積極的にエクソダスに関わる。エクソダスに否定的ながらも協力するゲイナーをなにかと気にかけるなど面倒見が良い。幼馴染のベローに好意を持たれているが友人以上の感情は持ち合わせていないため、ベローがゲイナーに嫉妬していることにも気付かない。戦闘時はウルグスク自警団のS.E.、パンサーに乗って戦う。
ヤッサバ・ジン
シベリア鉄道機甲警備隊隊長、ヤッサバ・ジン。職務に忠実であるが、血の気が多く猛獣になぞらえる獰猛な性格。大規模エクソダスの噂を聞きつけ、摘発するためにウルグスクを訪れる。エクソダスを全面的に否定することはないものの、鉄道を使わない旅であるために嫌い、鉄道にある種の妄執のようなものをみせる。幼い頃に父親がエクソダスで逃げため、同年代の子供にいじめられた過去を持つ。
アデット・キスラー
シベリア鉄道機甲警備隊の隊員、アデット・キスラー。傲岸不遜、我が道を行く性格で同僚からは姐さんの愛称で呼ばれる。スタイル抜群の美しい女性であるが、容姿を鼻にかける様子は一切見当たらない。他人の言うことを聞かないため単独行動でこそ本領を発揮し、人質や捕虜の救出など単独での潜入任務を与えられるが、故に波乱万丈の立場となってしまう。
ロボット要素
キングゲイナー
オーバーマン、キングゲイナー。ウルグスクのドームポリスを治めるメダイユ公爵の博物館に安置されていたものを、ゲインの強奪によってエクソダスのための戦力とされる。元の名前は不明であるが、ゲイナーによるID登録と筆跡が登録され、キングゲイナーと名付けられる。オーバーマンは金属製筋肉(メタル・マッスル)エンジンで構成されたフレーム自体がジェネレーターであり、パワー、スピードなどあらゆる面でシルエット・エンジンを大きく凌駕する。金属製筋肉を包む外装は装甲というよりは服に近いもので、オーバーコートと呼ばれる。フォトンマットを展開することで飛行も可能であるが、フォトンマットの起動による干渉で周辺のシルエット・エンジンを停止させてしまうため取り扱いには注意が必要。武装はチェーンソー状の武器。高濃度のフォトンマットを纏うことで近接用の剣に、放つことで遠距離用の銃となる。マッスル・エンジンとオーバーコートの組み合わせ発生するオーバースキルでは自身を高速化させる。高い性能を見せるが、大変動以前に作られたオーバーマンであるため、パーツの交換や修理は可能であるも、パーツの生産自体がロンドンとシベリア鉄道公社に握られているとされる。
ゲインのシルエット・エンジン
ゲインの乗る、S.E.(シルエットエンジン)。性能面ではオーバーマンには及ばないが、右腕には大型の狙撃銃、左腕にはオーバーマンの腕が移植され、通常のS.E.より遥かに強力である。狙撃銃は特殊弾芯を使うことでオーバーコートを破壊するだけの威力を秘め、オーバーマンより移植された左腕は高い防御力と腕力を見せる。狙撃銃の照準はゲイン手持ちの狙撃銃と連動しているためかコックピットは剥き出し。
余談。本来の機体名はガチコのはずだが、漫画版だと一度もその名称は出てこない(見逃していなければ)。
ラッシュロッド
ヤッサバのオーバーマン、ラッシュロッド。武装は蕾状の火炎放射器ベロウズと、両内袖にランチャーを内蔵する。ラッシュロッドの特徴はオーバースキル、オーバーミラーにある。合掌で光の輪を発生させ、触れた物体を跳ね返し、攻防一体の高い戦闘力を見せる。
ドゴッゾ
シベリア鉄道警備隊のS.E.、ドゴッゾ。複数人が乗り込めるS.E.。旧型であるためか、フォトンマットの起動干渉を受けてしまう。新型のS.E.になるとフォトンマットによ飛行も可能となるがドゴッゾには無い。武装は両肩部にある機関銃と手持ちの長身の砲。装甲も厚めであるが、性能面ではオーバーマンに大きく及ばない。
作画
作画は抜群に優れています。特に人物はただ立っているだけで雰囲気があります。表情然り、動き然り、ポージング然り、いちいち様になっています。
メカの作画も上手いです。直線的なメカだけでなく主人公機のキングゲイナーのような曲線のメカも質感含めて完璧に描かれています。しかし、寄りの絵が多めのためか、動きが分かりづらいのが難点です。全体が把握しづらく、動きの連続性が把握できないため、想像での補完が多く必要となります。ただし、巻をすすめる毎に引きの絵も増えて把握しやすくなるので、前半部だけに感じる問題だと思います。
雪の表現だけはどうなんだろうと思います。折角の素晴らしい作画が雪のエフェクトで潰れてしまっている場面が多くあります。別の表現であれば作画の質の高さがより感じられ、より親しみやすくなったのではないでしょうか。実際に雪が降れば視界が悪くなるのである意味リアリティはあるのですけど、綺麗に見れないので少し損した気分になります。
人物の作画が優れていると書きましたが、後半部の主要キャラとなるシンシアは特に優れています。今回は可愛らしい表情の画像にしましたが、どんな表情でも美しいし、どんなポージングでも蠱惑的です。
どのカットも魅力的だったので画像選びがすごく大変でした。ちょっと大げさかもですが、一枚一枚が芸術品のように感じられるほど魅力にあふれています。
雑感
アニメ未見です。大雑把に作品の概要は知っているけど、あってないようなものです。
本作は作画の質が高く、また原作がアニメであり富野作品ということもあり、当然世界観と物語の質も高いです。しかし、構成の部分が足を引っ張っており、読み終えた時に本作のテーマというのか全体像が見えませんでした。
作品のテーマにおいてゲイナーの成長が一番大事なものだと思われますが、描写は不足気味です。物語が広がりすぎているためかあまり目立たず、熱量は確かにあるのだけどゲイナーによって心が焚きつけられる感じがありません。
憶測ですが本作はアニメのミニマイズになっている印象で、必要な情報までもがミニマイズされたのではと思います。他の媒体で情報を収集すれば抜群の作画と勢いのある物語で十二分に楽しめるでしょうが、漫画だけだと物足りません(ただ単純に自分の理解力が低い可能性もあります)。
本作は富野作品の匂いが凄く強いです。習うより慣れろ、考えるな感じろと作品全体が主張しています。親切ではないため受け取る側から理解する姿勢を見せる必要があります。また、作画の質も雰囲気があるので近寄りにくさを感じるかも知れません。しかし、本作は暗い作品ではなくコメディな部分も多分に含んでいるので、読み味は重いどころか軽めです。優れた作画の漫画を読みたかったり、キングゲイナーに初めて触れるのであれば是非おすすめです。間違いなくアニメの方にも興味が向きます。
作品データ
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表紙と外部リンク
余談
構成を問題視して色々と書きましたが、下手ではなく普通だと思います。普段であれば書かないことですけど他の部分が秀でて優れているだけに気になりました。逆に構成の部分が優れていれば間違いなく名作と言われたはずです。
作品内の構成だけを問題視するわけではなく、各巻の頭にキャラ紹介あらすじ、エクソダスの経路図などが付いていると理解しやすかったと思います。富野作品は例外なくわかりにくい印象なので、編集の部分で親切さを見せてもらえると受け取りやすかったかな。ちなみに物語自体は楽しいものでした。特にエンディングへの向かい方は凄く良かった。過去と対峙する現在が活力あふれるように描かれていて読後に躍動感が強く残ります。
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