快傑蒸気探偵団

漫画感想記7冊目

この帝都(まち)は常に白い煙でおおわれてきた。いたるところから蒸気がふきだし都市の全貌を深い煙の中に隠しているのだ。この土地からは石炭以外に燃料として使用できるものが採掘されたなかったのだ。 それがこの世界に異常とまでいえるほどの蒸気機関の発達をうながしたのである。その煙におおわれた帝都を我々はこう呼ぶ――蒸気都市(スチーム・シティ)――しかしその白い闇にまぎれて悪事を働く者が現れた。数多くの怪人、怪盗・・・警察もお手上げの事件を幾多もおこす者共――その怪盗たちを相手に――難事件を次々と解決しているひとりの少年探偵がいた。その名は少年探偵――鳴滝。この物語は鳴滝少年とその仲間たちの大冒険活劇である!!【作中の文章を引用して作成】

登場人物

鳴滝少年

蒸気都市の探偵、鳴滝(ナルタキ)少年。名探偵と呼ばれた鳴滝総一郎を父に持ち、両親亡き後は鳴滝探偵事務所を受け継ぐ。鋭い洞察力と大胆な行動力を併せ持ち、次々と難事件を解決することから鳴滝少年もまた名探偵と呼ばれ、市民から深く愛される。小さな身体ながら身体能力は高く、綺麗な女性に弱いことぐらいが唯一の弱点である。鳴滝少年の携行する銃は一品物。アタッチメントを変えることにより多種多様な弾丸を打ち出し、さらに、ワイヤーを打ち出したりと様々な場面で役に立つ。

周鈴々

鳴滝探偵事務所の助手を務める16歳の少女、周鈴々(シュウ リンリン)。父の死を切っ掛けとして看護婦となるが、ナイト・オブ・ファンタムの計画に巻き込まれたことで鳴滝探偵事務所の一員となる。明るくとても優しい性格をしているが、女性にデレる鳴滝少年には厳しく当たるなど、嫉妬深い一面を時折見せる。

ナイト・オブ・ファンタム

親子2代に渡り蒸気都市を騒がす怪人、ナイト・オブ・ファンタム。先代ファンタムと鳴滝父は元々は親友だったものの、何らかの事件で袂を分かち、鳴滝父の殺害まで至ってしまう。先代ファンタムの恨みはそれでも晴れておらず、その因縁は現在のファンタムにも強く影響を及ぼし、鳴滝少年と鳴滝少年が愛する蒸気都市を深く憎む。性格は極めて残忍で、鳴滝少年を苦しめるためとあらばどれだけの犠牲を出そうと気にしない。ファンタムが関わる事件では物損、人身の被害が多く出ることになる。

ル・ブレッド 周蘭々

鳴滝少年の好敵手となる少年怪盗、ル・ブレッド。美しいものを好み、自身の存在を証明するかのように盗みを行う。鳴滝少年に強い興味を持ち、探偵と怪盗として勝負をすることに生きがいを感じている。人を喰ったような性格をしているが、美しいものに対しては敬意を払った接し方をするため、紳士と称されることもある。

(右の女性)鈴々の実の姉にして変装の達人、周蘭々(シュウ ランラン)。元は看護婦であったが、死にゆく父を延命の結果苦しませてしまったことで、医療という職業に疑問を持ち、その後出会ったル・ブレッドと行動を共にするようになる。

ロボット要素

強力(ごうりき)

生物工学の権威である周博士の遺作となる巨大人形(メガマトン)、強力(ごうりき)。巨大人形は電波操縦(ラヂオコントロール)が一般的であるが、強力に限っては自我に近いものを有しており、自らの意思に従って動く。武装は前腕部分の装甲内に隠されており、巨大なドリルやチェーンソーなどを必要に応じてマニピュレーター部分に展開する。

巨大人形は巨大蒸気人形と書かれることもあり、その名が示すとおり蒸気機関で動いている。そのため蒸気機関に直接水が入ると火が消えてしまい動けなくなる。また、その逆として蒸気機関を加熱させすぎると爆発する危険性があるので、強力のように冷却水のタンクを装着しているタイプも存在する。

シャドウ=ボルト1号

Dr.ギルティにより作られた巨大人形、シャドウ=ボルト1号。武装は両前腕部分を有線式で飛ばすロケットハンマー、外部からの操縦電波を遮断する電磁ネット。操縦方法は一般的な電波操縦。

1号の名が示すとおり本機はDr.ギルティ製1号機に過ぎず、シャドウ=ボルト2号、3号と姿かたちを変えつつ大幅な飛躍を遂げることになる。これらシャドウ=ボルトシリーズの中には巨大人形の中に入り直接操縦するタイプもあり、Dr.ギルティの技術レベルの高さが伺える。

スチームバット

少年怪盗ル・ブレッドが操る巨大人形、スチームバット。周博士により強力の後に設計のみがなされ、蘭々が持っていた設計図を商業都市ヤーパンに持ち込み製造された。本来の名前は「飞皇(ひおう)」であるが、少年怪盗ル・ブレッドの翼に相応しい名としてスチーム・バットと名付けられた。武装は3本指のマニピュレーター(爪)の中央に備え付けられた発砲兵器のみのため武装面での目新しさはないが、本機の最大の特徴は作中で確認できる限りでは唯一の飛行可能な巨大人形であること。また、背中部分から左右に大きく張り出した両翼は飛行時は安定翼として、本体への直接攻撃が行われた場合には折り畳まれて盾としても機能する。

作画

メカの作画は秀逸という言葉以外では表現できません。情報量が多い場面でも何が行われているのかハッキリと分かります。凝っているけどわかりづらい作品というのは結構ある印象で、そう感じさせないのは確かな技量とバランス感覚の証拠ではないでしょうか。

麻宮さんの人物といえば顔の描き方に癖があります。以前読んだ別の作品ではその癖の強さから違和感を抱えながら読み進めたことを記憶してますが、本作は違和感をそれほど感じません。本作にも癖は確かにあります。それでも作品の雰囲気が許容しているのか、癖がいい方向に働いて愛嬌に感じます。

余談。今回読んだ文庫版には新規の描き下ろしがあります。新規描き下ろし分は目の描き方がコミカルからリアリティ寄りになっているので結構違和感を覚えます。

本作は特に背景の作画が素晴らしいです。このように素晴らしい熱量の作画が各ページで見られます。そしてそれだけでなく、凝っているのにしつこくないというのが印象的です。人物や物語だけでなく背景でも世界観を遺憾なく発揮(表現)しつつ、同時に完璧な溶け込みをしていると思います。

このようなおまけ設定画もあります。これらのおまけはメカだけでなく事件時の街や人々の様子が描かれているものもあるので、読み応えと遊び心を十分に堪能できます。

雑感

本作の評価は難しい。作り込まれた世界観と惹き込まれる物語によって読み進めている間は至福の時間が流れます。そして、読み終わると同時に訪れる絶望感はなんとも言い難いものがあります。絶望感、それは物語が絶望的な内容なわけではなく、風呂敷が畳まれる前に終わってしまったことによる未完作品独特の絶望です。

麻宮さんの作品は数えるほどしか読んでいないので断言はできないものの、本作が完結までしっかりと描かれていれば代表作の1つとなっていたことは容易に想像できるほどの完成度を持っています。それだけに未完なことが何を差し置いても惜しいです。

未完作品は世の中に星の数ほどあります。未完作品のすべてが駄作かと言えば違いますし、未完作品のすべてが許されない終わり方をしているわけではありません。未完であることを納得できる終わり方をしている作品は多くあります。しかし、本作に限っては許されない未完であると強く言いたいです。1巻冒頭から引っ張り続けた最大の謎が放置されたままになっています。逆にその他の伏線が放置されていても気にならないものだったと思いますが、一番美味しい人参をぶら下げられたままとあっては馬は暴れざるをえず、読者は無情を湛えるものです。物語の90%以上は消化したであろうに最後の最後、正にラストピースが欠けた作品に対して抱く感情は複雑です。

ちなみに本作は割とスロースターターな作品なので最低でも3巻まではまとめて読んだほうがいいです。1、2巻だけを読んだ時点では自分はそれほど面白いとは思いませんでした。3巻以降はグイグイと引っ張られ、終わりが近づくに連れ、止めどころを失います。

作品データ

快傑蒸気探偵団
麻宮騎亜
集英社 ジャンプコミックス 1995/10 ~ 全8巻
メディアワークス 電撃コミックスEX 2001/12 ~ 全13巻 (電子版もあります)
集英社 集英社文庫 2006/9 ~ 全8巻 (←今回読んだ版)
メディアワークスから出版された「真・快傑蒸気探偵団」の1~8巻は集英社ジャンプコミックス版無印の既存分を再編集した内容で9巻以降から新規となる模様(Wiki情報)
集英社文庫版は無印と同様の「快傑蒸気探偵団」のタイトルで出版されているがメディアワークス版の「真・快傑蒸気探偵団」と同一の内容


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表紙と外部リンク

快傑蒸気探偵団 1
2006年9月発売
快傑蒸気探偵団 2
2006年9月発売
快傑蒸気探偵団 3
2006年11月
快傑蒸気探偵団 4
2006年11月
快傑蒸気探偵団 5
2006年12月発売
快傑蒸気探偵団 6
2006年12月発売
快傑蒸気探偵団 7
2007年1月発売
快傑蒸気探偵団 8
2007年1月発売

余談(ネタバレ注意)

以下ネタバレを多いに含んだ余談というか疑問というか感想というかそんなものを書いていきます。既読者の方のみお付き合いいただければと思います。

結局アリマンタンドの秘密というのはなんだったのか。鳴滝父と川久保が隠した秘密は何だったのか。蒸気都市の秘密はなんだったのか。この内のいくつかは読み進めることで理解できたけど、いくつかは理解できない。それら疑問を勝手に投げかます。

まず、鳴滝少年の正体。錬金術で作られた人造人間(ホムンクルス)で間違いないかと思います。怪我の治りが異様に早いことや身体能力が異常に高いことは勿論、ル・ブレッドの発言が最たる理由となります。ル・ブレッドと正反対=永遠を生きる、ということになり、その後の発言「秘密は僕らのすぐそばにあったんだ。その力で蒸気都市は守られている」というのは、少年探偵として難事件を解決し続ける鳴滝少年を指していると思われます。また古代ベルナ語を自然と読めたのはアリマンタンドかその仲間の記憶かなんらかが焼き付けられているのではと予想しています(別の事件で学んだ可能性も否定出来ないけど)。

次いで川久保と鳴滝父の正体。川久保と鳴滝父、そして先代ファンタムが錬金術に触れていたことは間違いありません。ただ発見しただけなのか、それとも元々アリマンタンドの仲間だったのかがハッキリしません。ちなみに川久保の日記は鳴滝少年の成長記録で間違いないかと思います。川久保が鳴滝少年の秘密を知っているのは病院を頼らないことからも間違いないです。

現在のナイト・オブ・ファンタム。これは1巻冒頭の台詞、オペラ座での舞台の内容、最終巻での鈴々と白蛇のリアクションから鳴滝父の実子であることが伺えます。ファンタムが蒸気都市を憎む理由は本来自分がいるべき場所を鳴滝少年に奪われたからかと考えられますが、それだけでは説明できない部分が多く、舞台の内容で語られていない部分に大きな秘密があるはずです。

鳴滝父の裏切りというのは舞台で描かれていたことがほとんどだと思われますが、あの舞台で語られていないことが1つはあるはずです。これは妄想の域に入る話だけど、鳴滝父は殺されることは最初から覚悟をしていたのではないでしょうか。現在の鳴滝少年を守るために実子の現ファンタムを身代わりとし、先代ファンタム(と背後にいそうなもの)が求めていた鳴滝少年を川久保に預けていたのではないかと予想します。この憶測が成り立つと現在のファンタムが鳴滝父と鳴滝少年を憎む理由も理解できるし、同時にファンタム親子が裏切りと感じた答えにもなりうるかと思います(先代ファンタムは偽物を掴まされた絶望、現在ファンタムは父親に売られた絶望)。

結局ここまで妄想をしてみても鳴滝少年が何故必要だったのか理由がわからないのですよね。何故鳴滝少年が作られたのか、先代ファンタムは何故鳴滝少年が必要だったのか。鍵を握っていそうな鳴滝母が描かれていないので謎が謎のままって感じですよね。

あ、そうだそうだ。Wikiに書かれていることなんですけど、彼女のカレラに描かれている後日談とはどんなものなのでしょうか?本当に8巻の続きが描かれているのか、また彼女のカレラの何巻に収録されているのかなどご存じの方がいらしたら教えていただけると嬉しいです。

ちなみに今回読んだ文庫版に収録されている描き下ろし漫画はル・ブレッドが存命なことから本編終了前の話であることが確実視されます。1話4pの計32pと短いので読み応えも微妙なところでした。

はい、余談終了です。ここまでお付き合いありがとうございました。未完故に語ろうと思えばいくらでも語れてしまいますね。

快傑蒸気探偵団 【小説版】

白い煙におおわれたスチーム・シティでは、怪盗虹仮面による、虹水晶の連続盗難事件が発生していた。7つある虹水晶のうち、すでに4つが虹仮面の手に渡り、蒸気警察の八神警部は、市民の批判にさらされていた。赤水晶を虹仮面に奪われたあと、川沿いを散歩していた八神警部。すると、小柄な少年が

後日小説版も読みました。よければこちらもどうぞ。

5件のコメント
  1. 私も未読で何巻かはわかりませんが、彼女のカレラ39話であることは間違いないようです。

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  2. うおおお、マジですか! 39話が載ってそうな単行本買って確認してみます!! 情報ありがとうございます!!!

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  3. こちらで報告させてもらいます。39話が載っている「彼女のカレラ 4巻」を買って確認しました。

    とりあえず後日談と呼べるようなものではなく、2コマしか描かれていません。ちなみに内容は「おまえは!!」「ル・ブレッド!!」「フフフフ久しぶりだね鳴滝君」と書かれているだけです。

    wikiに「~劇中劇として、後日談が描かれている。」と編集されたのが2007年2月16日で、彼女のカレラ4巻の発売日は2006年9月24日なので、39話とは別にあるのか、編集者が敢えてミスリードをさせるような書き方をしたのか、どちらかでしょうね。

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  4. 報告ありがとうございます。たった2コマだったのですね��後日談他の話数にあるんでしょうかね。なんだかそれだけの可能性の方が高い気がしますが…。
    彼女のカレラ今リードカフェで数話ずつ更新&公開していますから、後日談がもし出てきたらお知らせします。

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  5. 期待しすぎると肩透かしを食らってしまうので、あったらいいなぁ程度に考えるくらいが丁度良いかと思います。また何かありましたらよろしくおねがいしますね。

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