小説感想記18冊目
獣人の中でも一大勢力を誇るケモノ族。その族長の息子ワン・ダバダは、父シャバ・ダバダの命で、幼なじみのメイ・マーたち海棲族が主催する、五年に一度の「神霊機(ジン)の心」争奪戦に参加することになった。「神霊機の心」とは「神霊機のピラミッド」におさめられた次期獣人の長となるための証なのだ。ピラミッドの前には、争奪戦に参加するために数多くの獣人たちが集まっていた。その中に、「自称」ワンのライバル、ピュー・マがいた。ワンは彼の卑劣な攻撃をかわし、メイ・マーとともにピラミッドへ入って行く。その中には、怪しげな怪物や恐ろしい罠がワンたちの行く手をはばむ。このピンチを切り抜けて「神霊機の心」を手にすることが出来るのか!? 人気絶頂のOVAシリーズの小説化第一弾!【1巻そでより引用】
登場人物
ワン・ダバダ
トラのビースト、ワン・ダバダ。14、5歳。ビーストとは地球上の食物連鎖の頂点に位置する存在。地球上は極限に近い暑さと湿度、大気の問題もあって、生身の人間には厳しすぎる環境下である。ビーストは人に近い容姿をしているが、ワンの場合くしゃみをするか感情の発露で獣人(ビースト)化し、ヒゲや耳や尻尾が生え、黄と黒の体毛に覆われる。獣人化したワンは目で追うことすら難しいほどの凄まじいスピード誇り、しなやかさも具える。ネコ科のビーストであるため泳げないこと、ワン個人は食欲に忠実で空腹に弱いことが明確な弱点。父親は大部族ケモノ族の族長、シャバ・ダバダ。ケモノ族はライオン、チータ、ヒョウ、山猫などネコ科のビーストを中心とし、馬やヒツジやサルまでいる、およそ3千人からなる大部族。ワンは族長になることに興味がないため、次期族長候補を決めるジンの心争奪戦も不参加のつもりであったが、母親ルン・タッタの懐柔で参加を決める。父親のシャバとは喧嘩の絶えない仲であるが、女を守るのが男の務め、仲間を守るのが男の務めというシャバの教えが心に刻まれている。
メイ・マー
マーメイド族の女王の娘、メイ・マー。ほっそりとした体型の美しい少女。獣人化して人魚になると、エラ呼吸に変わることで水中を自在に泳げるが、陸の上では息が出来なくなってしまう。また、涙を流しただけで意図せず獣人化してしまため、陸上で呼吸困難になり苦しむことも。ワンとは幼馴染で幼少の頃より恋心を抱き、海棲族が執り行う儀式の使者としてケモノ族の村を訪れ、ワンと久しぶりの再会を果たすが、色恋に疎く食欲にのみ忠実であるワンに想いが伝わらない。
メッカ・マンネン
亀のビースト、メッカ・マンネン。まん丸ボディに穏和な性格の持ち主。獣人化すると手足が引っ込み、厚い甲羅が現れ亀のようになる。とても仲間想いな少年で、私欲もなく、メイ・マーのお供であることから、メイ・マーを守ることに心を砕く。亀のビーストのため動きは早くないが、頭の回転、判断の早さで仲間を助ける。また、感情的になりがちなメイ・マーをよく補佐する。
テンシコ
20cmくらいの小さな生物、テンシコ。背中から白い羽が生え、頭の上には小さな輪っかが付く。ジンのピラミットを漂っていたところをワン一行に誘われ仲間となる。善の心を強く表す優しい性格であるが、意外なことにワンと抜群の相性を示し、仲睦まじい姿を見せつける。恋とは無縁の好意であるが、ワンに惚れるメイマ・ーは恋のライバルとして警戒する。謎多き生物であり、ジンの心の正式名称がソウルゲージであることを知り、機械の操作を淀みなく行うなど、太古の知識を豊富に有している。また、頭のリングは凄まじい切れ味を誇り、お尻を触られると激しく動揺し、頭のリングを振り回して暴れる。
ピュー・マ
黒ヒョウのビースト、ピュー・マ。感情の発露で黒ヒョウに獣人化する。気障で極度の自信家だが、罠を仕掛けて陥れようとするなどかなりの卑怯者でもある。かつてワンに負けたことを唯一の汚点と捉えており、一方的にライバル視する。ワンに負けた後、3年間の山篭りをし、次期族長になることを目論み、満を持してジンの心争奪戦に参加する。軽い振る舞いが目立つが、胸の内には重く邪な野望が渦巻く。
ロボット要素
地霊王
ケモノ族の村に祀られた神霊機(ジン)、地霊王。各部族には太古より伝わる石像が存在し、ケモノ族には四本脚の獅子の姿をした石像が伝わり、村の中心の祭壇に祀られる。ケモノ族には言い伝えとして、旧き者たちにジンが渡ったときジンは悪魔と化すと伝わるが、旧き者ことヒューマンの襲撃によって村から持ち去られてしまう。バイオ・プラーナというエネルギーが足りないため兵器としての機能を失い石像と化しているが、ヒューマンの科学者Dr.パスワードの調査によってバイオ・プラーナが補充されると、兵器としての本来の機能を取り戻す。他のジンに比べると小型であるが、鋭い牙と腕には鋭い刃が隠されており、高い攻撃力を誇る。また、自己修復機能も有している。強力な兵器であるが、動かすには数々のトラップで守られたジンのピラミットに存在するジンの心が必要となる。掌サイズの透明な球体であるジンの心の本来の名称はソウルゲージ。ジンと主人の精神を結ぶ感情伝達システムメーターで、主人の思考や感情、意思を汲んで行動を制御する。さらに、主人の感情の爆発や生命の危機に瀕すると独自の判断を下す。ヒューマンによって復活したが、ジンの心の所持者でケモノ族であるワンの意思に沿って動く。
空霊王
トリ族の村に伝わるジン、空霊王。巨大な白い翼を生やし、伝説のロック鳥を模した巨鳥型のメカ。地霊王、海霊王と違い、飛行能力を有する。背中にワンや地霊王を乗せて飛べることが出来、さらに自身より遥かに大きい海霊王を脚で掴んだまま飛ぶことが出来る。必殺技は翼をすぼめての回転突撃攻撃。
海霊王
マーメイド族の村に伝わるジン、海霊王。古代の海神を模したメカで、全長は20m前後。地霊王、空霊王と比べると頭抜けて大きく、内部に人を乗せることが出来る。凄まじい膂力を誇るため素手でも高い戦闘力を誇るが、三叉の鉾、トライデントを主武器として用いる。
地霊王、空霊王、海霊王の3体は特殊な神霊機で、ガイアと呼ばれる存在に結びつく重要な鍵になっていると思われる。そのため、ヒューマンたちが住むウラノスの地の支配者、ツァーマスターはDr.パスワードに命令し、調査に当たらせる。ジンはビーストに伝わるものだけでなく、蝙霊王(へんれいおう)や犀霊王(さいれいおう)、魔霊王(まれいおう)などはヒューマンの戦力として使われる。南の支配者ヒューマンは北の支配者ビーストに比べてテクノロジーレベルが極めて高い。
イラスト
本作は主に2種類のイラストがあります。まず、綺麗や可愛い、カッコいいといった表現が似合うイラストがあります。可愛いデザインのキャラが多く、イラストでも可愛さや綺麗さがよく表現されています。
そして、ギャグ調のイラストも結構多いです。本作の内容が内容だけに崩したイラストが多くなるのは仕方なく、イラストにも作品の雰囲気が出ています。
メカの画像は1枚だけです。本作のメカ要素がメインとなるのは2巻の中盤から後半にかけてなので、イラストも必然的に少ないです。ちなみにイラストの機体は紹介していない神霊王だと思います(間違っているかも)。
作画の質の高さはここまでで伝わっていると思いますが、本作のイラストには問題があります。イラストの挿入位置が文字より先行してしまっていて、イラストでバレを食らってしまうことがあります。単純に文字より後にしてほしかったです。
雑感
以前に漫画の感想記で本編(本作)の外伝作品を読んでいまるのと、感想記では扱っていませんが、もう一つ存在する漫画の外伝作品も読んだことがあります。アニメ未見ながら作品の雰囲気は掴めており、多少の知識もある状態で本作を読みました。下のリンクは以前に読んだ外伝の感想となります。
KO世紀ビースト三獣士 外伝 BIRTH of the V 美 DARN
遙かなる未来――超エネルギー『ガイアシステム』の暴走により引き起こされた最終戦争の結果、地球は真っ二つになりその北半球は次元の断層に呑み込まれてしまった……それから一万年――異次元に幽閉され、滅びるままであった人類は強大な力を持ったツアー・マスターを指導者に迎えて残された地球…
本作を一言で表すならば、毒にはなるけど薬にはならない作品です。THE 娯楽小説という感じで、深く考えることはなく、気楽に楽しめる作品です。毒にはなると書いたのはちょっとお下品な部分があるという意味で、つまらない作品というわけではありません。
本作はギャグメインの作品で緩い会話文も多い作品ですが、締めるところは締めているのでメリハリは効いています。そのおかげで笑いつつも緊迫感を保たれており、バランスの良さが感じられます。文章は良くも悪くも癖が強いです。擬音を多用することで視覚的になっていますが、擬音で済ませすぎているために、文章のつながりが希薄になっている場面が多々見られます。擬音を使う作者さんは他にも多くいますが、状況の描写まで省いて擬音だけで済ます人は少ないので、相対的に淡白に感じます。
そういった上っ面の部分以外を除くと文章力の高さを感じられます。作家さんによっては動きの多い場面で状況がよくわからなくなったり、スピード感を無くしてしまうこともありますが、そういった描写がしっかりしています。軽さや擬音に騙されそうですが、混同して受け取るのは駄目でしょう。
本作はとにかく頭を空っぽにして読むことをオススメします。細かくツッコミを入れながら読むのも一興だとは思いますが、細かいことを気にするなと作品全体が主張しています。細かい部分をどう受け止めるのかで評価が分かれるでしょう。
アニメを見ていなくても楽しめるし、物語の基本線がしっかりしているため、物語自体も楽しめます。小説作品を読んでいる時に感じる特有のカタルシスは全く無いので、そういった面を求めて本作を読むことはオススメできません。ビースト三獣士とはどんな作品なんだと、肌触りを感じたい人の入門用として良いかと思います。1巻が前日譚、2巻は前日譚の要素を加えたアニメ本編のノベライズになっていますので、事前準備無く読めるので最初のハードルは極めて低めです。
作品データ
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表紙と外部リンク
余談(ネタバレ注意)
作品内についての余談なのでネタバレが嫌な人は避けてください。
メイ・マーは涙を流すと獣人化すると説明されているけど、泣いているのに獣人化していない場面があります。あくまで、獣人化はネタとして使うものであって、シリアスな雰囲気を壊したくない場面では無視する設定ということでしょうか。深く考えるものではないと思うのですけど、ツッコミを一応入れておきます。
余談その2。wikiにはメイ・マーがジンの心をなくしてメッカの分を受け取ったと書いてあるけど、無くしたのはワンですね。そして、ジンの心は4人分はなく、ワンの分がバドに流れたので元々3つしかありません。ジンの心争奪戦ではバドは端役でしかないので、バドの分は元々考慮されておらず、棚ぼたゲットしただけというオチです。
余談その3。本作は3巻の発売を予定していたとあとがきやwikiに書かれていますので、未完作品という扱いになるようです。しかし、本筋の話は終わっているので、未完作品特有の消化不良感はありません。3巻は後日談になる予定だったとwiki情報にはあり、それはそれで間違いなく楽しめたので存在しないのは残念ですけど、本作は2巻まででも十分楽しめますので、その点は気にする必要はないです。
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