超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか 【小説版】

小説感想記5冊目

「死ぬ。これが実戦ならば、光の帯が消えると同時に死ぬんだな。」新人のマックスに破れた心の傷を癒やすべくコンサート会場を訪れた一条輝。「なんて軽薄な歌なの。なにがキューンキューンよ。パイロットはみんな真剣に操縦してるのよ。気軽なラブソングなんかの対象にしてほしくないわ。」同僚にチケットを渡され、仕方なくコンサート会場に来たブリッジオペレーターの早瀬未沙。チケットは発売直後に即完売。コンサート会場は熱狂の渦。マクロスのスーパーアイドル、リン・ミンメイははじけるように歌う。優柔不断な男。固すぎる女。憂いを秘めたアイドル。一人の男と二人の女が織りなす物語が今始まる。【作中の文章を引用しつつ自作】

登場人物

一条輝


スカル小隊二番機パイロット、一条輝(イチジョウ ヒカル)。18歳。新人であるため階級は最下級の三等尉。天才の呼び声高いマックスには劣るものの、十分に優れた腕のパイロットである。未沙のような頭ごなしに来る者には反発する生意気者だが、憧れのミンメイを前にすると素直になる正直者。奥手であるため手は遅く、兄貴分のフォッカーに呆れられるほどである。

早瀬未沙


マクロス航空管制主任オペレーター、早瀬未沙(ハヤセ ミサ)。階級は中尉。厳格な軍人の家庭に生まれ育ったため、考え方が固い。隊員のプライベートにまで口を出すこともあり、そのことで輝とは口論になる。男性に素直になれない性格は家庭の影響が強い。母親が病床でも笑みを絶やさなかったことで、父親に傅いているかのように映り、そのことで嫌悪するようになる。現在、心を許せるのは同性で同僚のクローディアくらいである。お硬い一方、私服ではワンピースなど可愛らしい服を着こなす。

リン・ミンメイ


マクロスのスーパーアイドル、リン・ミンメイ。代表曲はサンセット・ビーチ、私の彼はパイロット、0-G LOVEなど。コンサートのチケットはプレミアが付くほどの人気で、特に若い層からの人気が高い。歌手になるのは小さいときからの夢であったが、芸能界の人間関係に嫌気が差している。輝とはマクロス艦内に敵機が侵入したときに助けられたことで知り合う。壁を作らない性格で、奥手の輝とも仲良くなり、不器用で素直な輝に惹かれ始める。

ロイ・フォッカー


スカル小隊隊長、ロイ・フォッカー。戦績抜群のエースパイロットで、フォッカーのバルキリーには髑髏がマーキングされている。良き兄貴分でもあり、スカル小隊の部下への気遣いは勿論だが、部隊外の未沙にもアドバイスを送るなど器の大きさが伺える。輝とは輝が軍に入る前からの親交を持ち、操縦の指導だけでなく、恋愛指南も行う。これまで付き合った女性の数は知れない恋多き男で、現在はブリッジオペレーターのクローディアと付き合う。

ロボット要素

バルキリー

地球統合軍主力機、バルキリー。人型のバトロイド、飛行機型のファイター、バトロイドとファイターの中間形態のガウォークの3形態に変形することで、あらゆる状況に対応することが可能。主武装はレーザー砲。当たれば敵戦闘ポッドを一撃で倒せる。機動力、攻撃力共に高いが、装甲は薄く、直撃を受ければ一撃で墜ちる。

余談。クアドランやマクロスの設定画はあるのに、バルキリーの設定画は何故かありません。

マクロス

地球統合軍の戦艦、マクロス。全長1.2kmを誇る戦艦の艦内には人工的な街が存在し、樹木や風に雨といった自然の再現もされている。武装面では全身に数多くの砲門を装え、主砲は敵戦艦を一撃で葬るだけの威力を持つ。ただし、主砲を撃つためにはロボット型への変形が必須となる。変形するまでに多くの時間を要するのと、変形することで艦内の街にも多くの被害を出すため、非常時以外は使われない。防御面では艦全体を覆うバリアーを装備していたのだが、空間瞬間移動(スペースフォールド)の最中に機能が停止して使えなくなる。現在は敵の攻撃に対してピンポイントで展開する、ピンポイントバリアーで防御面を補う。ちなみに、戦闘状態になっても混乱を避けるため市民へのアナウンスはされない。変形する場合など市民生活に影響がある場合だけは緊急のアナウンスが入る。

リガード


敵異星人の戦闘ポッド、リガード。性能はそれほど高くないが、数で圧してくるため侮れない。機動性や防御力は高くないが、火力は高い。

イラスト


残念なことに表紙以外のイラストはアニメカットの使いまわしです。


そのかわりとして巻末に設定資料が多めに掲載されています。イメージソースが足りない場合は補えます。


ページ幅に合わせたトリミングもされていないのが殆なのと、文章と絵の親和性も低いです。作品の雰囲気に合っていないので、正直無くてもよかったかな。

雑感

マクロスシリーズは全作ではありませんが結構見ています。初代マクロスだと今回読んだ小説の原作にあたるアニメも見ましたし、TV版もちょこちょこ見た記憶があります。しかしながら、これらの記憶は遠い昔のことです。印象的な場面は覚えていますが、細かい部分は殆ど覚えていません。そのため比較をしながらというよりは、本作から受けた印象を中心に書いてみたいと思います。

本作は未沙と輝を中心とした物語となっています。未沙が経験したこと、輝が経験したことしか書かれていません。そのためアニメの追想という形にはなっておらず、アニメの細かい掘り下げという印象が本作にはありません。

では、何が書かれているのかというと、未沙と輝、そして、二人から見た周りです。自分の中で未沙という存在はそれほど強いものではありませんでしたが、本作は大きく変えました。こんなに個性の強い女性だったんだと。もう、個性の塊過ぎて終始キレッキレで、こんなにおもしろい女性だったんだと、新鮮すぎる驚きがありました。

少しネタっぽい表現で書きましたけど、それほど内面が書かれています。それぞれの人物が未沙の目にはどのように映っているのか赤裸々に書かれていますし、彼女の気持ちが凄く伝わります。もうひとりの主役である輝も同様です。輝の場合はそれほど印象からは外れていないので驚きというのはありませんでしたが、輝の視点で書かれる恋模様は説得力のあるものでした。

マクロスといえばその後の伝統にもなる三角形です。ミンメイを好きになる輝の気持ちもわかるし、未沙を好きになる輝の気持ちもわかります。ある種の必然的に三角形が出来上がっており、そこに至るまでの違和感がありません。

内面の描写が素晴らしい本作ですが、一つ注意点としては、表現の仕方や男と女に対する価値観は現代とは違います。それほど不快には感じないと思いますけど、苦手な人は注意が必要かも。ただ、この表現は作品の肝といっても良いものなので、読み進めていけば自ずと理解できるものでしょう。

本作のわかりやすい欠点としては完結まで書かれていないことです。アニメが存在しなければ本作は中途半端な存在になりかねません。他の媒体で作品の全体像が描かれているからこそ、本作は存在することができています。

他の媒体で予習し、そして本作を楽しむことをオススメします。輝と未沙の視点のみなので、相手側の状況がわかる描写も極めて少ないし、マクロスの置かれている状況についての描写も少ない。二人が関与していない部分はそもそも描写が全くされません。

自分の立場ではわからないことですが、本作だけの情報だと読後感も悪いのかもしれません。自分の立場からだと、中途半端なところで終わっているのに、読後感は良いです。足りないことを欠点と書きましたが、逆に必要ないと断言してもいいぐらいに纏まっています。特に終わり方に関しては完璧の一言です。

作品データ

超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
富田祐弘
美樹本晴彦
小学館 小学館文庫 1984/9 全1巻
小学館 スーパークエスト文庫 1992/5 全1巻
同名アニメの脚本家によるノベライズ作品
小学館文庫版とスーパークエスト文庫版の表紙以外の違いは小学館文庫版未所持のため不明







100

表紙と外部リンク


劇場版 超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
1992年5月発売

余談(ネタバレ注意)

余談と言い訳を少し。ネタバレ部分も含むので気をつけてください。

まず言い訳を。ロボット要素についてなんですか、申し訳ないけど説明を放棄しました。普段、ロボット要素の説明文を書くときは、本文の文章から情報を拾うように心がけています(作品内に資料が掲載されているならば使いますが)。Wikiや公式の情報を拾うほうが楽ですけど、媒体や作品によって説明が食い違っていたりするので、本文から拾ったほうが面白くなると思っています。

で、今回の場合であればどうなったかというと、そもそも説明できるだけの情報量がありません。かなり薄い情報ですけど、かなり頑張って集めた結果があれです。マクロスの場合は他に頼らずとも、自分の記憶を探れば肉付けはもっと出来ます。しかし、今回は放棄という形を取りました。この薄さがある意味作品を表しています。情報がないこともまた情報だと捉えてもらえたらと思います。

雑感でも書いていますが、本作は未沙と輝をフィーチャーしています。未沙と輝の関係を語る上で外せないミンメイは相応の描写量がありますが、その他の要素はかなり薄いです。

戦闘はおまけです。ゼントラーディとメルトランディの対立もおまけです。プロトカルチャーの秘密もおまけです。本作はアニメの方では最も印象的な場面である、ボドルザー艦隊との決戦の前で終わります。アニメに思い入れがあればあるほど、おいおいとなるでしょう。でも、本作はそれでも全く問題ない、気にならない。読後感は凄くいいです。そういう作品です、本作は。

読後感は良いと書いたけど、ミンメイは不憫でした。本作というか劇場版マクロスで未沙が選ばれるのは必然だと思っています。輝のミンメイへの認識が憧れの人なんですよね。対等の立場となるには時間(物語)が足りないので、必然の選択だったと思うし、腑に落ちます。これがTV版となると話は違うのですけど、今回語ることではなさそうなのでその時まで取っておきますね。

腑に落ちたと書いたのに、何が不憫かという話です。それが最後の最後、ミンメイが愛・おぼえていますかを歌っている場面でのクローディアの台詞です。

「ロイがいったことがあるわ。男っていうのはしょっちゅういろんな女の子を愛せる、だけど浅い」
「でも、女はちがう。女はまれにしか愛さないけど、深い」

この台詞が痛い。これはフォッカーを失ったクローディアの気持ちと、輝に振られたミンメイの気持ちを想っての台詞です。その直前に、輝がミンメイに歌詞カードを渡すのですけど、その場面でも輝にアイドルであることを求められたんです。恋した人から孤高の立場に行くよう促されたわけです。カリスマ性や伝説を作る意味では相応しい扱いだとは思いますけど、女の子であることを考えると辛いです。ミンメイの今後を暗喩したであろうクローディアの台詞は物凄く重かった。まぁ、ミンメイと輝についてはTV版の小説かその他媒体で触れる機会があればその時にでも語りますね。

ずいぶんと脱線してしまいましたが、こうして語ってみてやはりマクロスってすごい作品だなと思うわけです。小説も漫画もマクロス作品はいっぱいありますし、マクロス作品は良作や傑作のたぐいが多いので語りやすいです。では、またいずれのマクロス作品でお会いしましょう。

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