小説感想記9冊目
海洋都市トリスティア――遠い昔から会場貿易の要として繁栄し「海の宝石」と称えられてきた美しい都市。ですが……それも今は昔。十年ほど前に起きたドラゴンの襲来で、街は本来の輝きを失ってしまったのです。トリスティアの人々は、街の復興に一生懸命励みました。ですが、やることなすこと、すべて裏目。かえって街はさびれる始末。万策尽きた街の人々は、数々の滅びかけた都市を蘇らせたという伝説の発明家「大工匠プロスペロ」にトリスティアの再建をお願いすることにしました。そして、待ちに待った大工匠プロスペロ到着の日……街の港に降り立ったのはたったひとりの女の子だったのです。プロスペロは自分の代わりに新米工房士のナノカをよこしてきたのでした。【そでより引用】
登場人物
ナノカ・フランカ
ナノカ・フランカ。ポニーテールともち肌のほっぺがチャームポイントのマイペースな元気っ娘。弱冠14歳にしてプロスペロ流工房術の免許を皆伝。神経痛の祖父、生ける伝説プロスペロに代わり、トリスティアの復興を託される。トリスティア市民からは疑問を持たれたが、市民からの信頼が厚いリュナント神殿の若き女司祭、レイグレットが才能に惚れ込み後見人を務める。市民からの様々な要望を、万能工具スプレンディッド・インパクトで解決する。また、依頼の内容は機械の設計や製造だけでなく、レシピの制作も含まれるため、料理の腕前もかなりのもの。作業に没頭すると時間を忘れ、お風呂に入ることも忘れてしまう。本人の感覚では2日に一回入れば十分。3日に一回だと少しまずい、一週間以上空いているとまずいとなるようだ。理のスペシャリストと称されるが、意外にも精神論者である。母親は出産後すぐに亡くなり、父親は旅に出てしまったので、両親の顔を知らない。そのため、祖父やスツーカが親代わりであった。
フォーリィ・キャラット
キャラット商会の会長を15歳にして務める、フォーリィ・キャラット。5歳の頃にドラゴンの襲来で両親は亡くし、両親との思い出が残る、港の貿易会社キャラット商会を引き継ぐ。港で働く男たちをまとめ上げ、賄いを作るなどおふくろの役割も担うが、姉御や姐さんと呼ばれるのは嫌がる。勝ち気な少女であるため、ナノカの鮮烈な活躍を認めつつも素直になれず、ナノカのことをバカやガラクタ屋と呼ぶ。スタイルが良いだけでなくかなりの美貌の持ち主であるが、本人はそれほど意識していない。謙遜しているわけではなく自己評価が高くないだけのようす。ナノカ曰く胸はジャンボプリンとのこと。
ネネ・ハンプデン
世界有数の巨大財閥、ハンプデン家の長女、ネネ・ハンプデン。ナノカの2歳下の12歳であるが、ナノカの一番の友人を自称し、ナノカを愛する気持ちは誰にも負けない。曽祖父から譲り受けた懐中時計が壊れてしまい、ハンプデン家お抱えの修理工もお手上げだったが、ナノカは数分で直してしまう。ナノカの手を神様の手と確信し、ナノカに対し尊敬と敬愛の感情を抱くようになる。ナノカがトリスティアに旅立つと、高級レストラン、ハンプデンズをトリスティアに開店し、総支配人としてトリスティアまで追いかける。名目の支配人というだけでなく、料理の腕前も支配人としての振る舞いも一流である。お金は湯水のように使え、ナノカのためであればいくらでも使ってしまう性分であるが、裕福であることを全く鼻にかけておらず、振る舞いは年相応の少女のものである。ナノカより遅れてトリスティアに来たことで、その間にフォーリィとナノカの仲が進展してしまい、フォーリィを恋敵として警戒する。
スツーカ
オオカミ型自立稼働Eテクユニット、スツーカ。人語を解するため人と同じように会話をする。声音はダンディ。ナノカが幼少の頃より面倒を見てきた父親代わりであり、現在は同僚となり、才に走りがちなナノカのサポートを行う。
ロボット要素
テンザン
Eテクユニット、テンザン。鉄巨人の人型形態だけでなく、飛行形態への変形も可能。ナノカの祖父、プロスペロ・フランカの手によるEテクユニットの一つ。先史文明の異質科学、Eテクは現在の文明レベルの域を超えているため、扱える人間は極めて限られる。自我を持ち合わせているものの、会話ができるのはスツーカだけ。YES、NOとガッという返事はするので大まかな感情は伝わる。スツーカ曰くナノカバカであるため、誰よりも何よりもナノカが可愛いと考える。
イラスト
綺麗で可愛らしく、親しみやすい絵柄だと思います。また、原作と同じ絵師さんということで、既ファンの方にも違和感はないのではないでしょうか。
コミカルな作品だけにコミカルなイラストが多いです。お色気なイラストも実は多かったりするのですけど、可愛さ寄りなので安心して読めます。
挿絵は主要3人のイラストがほぼ全てで、サブキャラのイラストはありません。しかし、巻初にキャラ紹介の形でイラストは紹介されていますので、イメージソースには困らないと思います。
雑感
文章が読みにくいです。区切り方や語尾に違和感を感じます。また、文章の書き方が小説のそれではなく、ブログとかもっと一般的な文章の書き方に感じます。そのため、伝わりはするのだけど雰囲気が出ていません。また、言葉のつなぎも不自然です。一般的な小説の書き方ではなく、流れの文章を読んでいる感じで、この部分でもブログ的な印象を受けました。
作品全体の構成は功罪相半ばです。一月毎の連作短編という形は素晴らしかったです。何が良かったかというと、時間の流れが感じられたからです。本来であれば流れの部分を描かなければ唐突に感じますが、季節事で時間の流れが必然的に感じられるので、描かれてはいないのだけど彼女たちの間にはいろいろあったんだと自然と納得ができました。巻の初めと巻の終わりではキャラの立ち位置が全く違っていたにもかかわらず感情移入はしやすかったです。
逆に悪かった点というのが、1話ごとの展開が急ぎ足になってしまっていることです。各エピソードが30ページ前後で展開されるのであっさり気味です。また、思わせぶりな話の展開をして、後はゲームで確認してねっていうエピソードがあったのは残念でした。事後談として触れるならわかりますが、まるで本題かのような書き出しには違和感しかありませんでした。
本作にはもう一つ良かった点があります。主要3人の掛け合いが楽しい。特にネネはいいキャラしています。ナノカとフォーリィだけだと予定調和になりそうなところを、ネネのキマシが可愛らしく、掛け合いを楽しくしてくれます。ナノカ、フォーリィ、ネネの主要3キャラのバランスが非常に良いと感じます。余談ですが、ネネの説明文がナノカ祭りになっているのは偶然でもあり意図的でもあります。
設定やキャラは原作があるだけにしっかりとしており、設定が活きた物語であるため、物語自体はかなりいいものだと思います。大きな広がりはありませんが、小さいけれど綺麗にまとまっています。そのため、読後感はよく、本来であればゲームから本作へという流れのところを本作からゲームという流れにもつながる作品です。明確な欠点を持ち合わせていますが、同時に魅力を内包した作品です。また、文章は読みにくいと書いていますが、表現しようとしているものは凄く良いものです。ただ、読みづらい、それだけです。
作品データ
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