漫画感想記6冊目
1945年――第2次世界大戦は意外な形で終焉を迎える。『黒い月』それに続く人類の天敵の出現である。人類の天敵これを『幻獣』と言う。それから50年、戦いはまだ続いている。1998年――もはや恒常化した幻獣との戦闘において一つの事件がおきる。記録的な惨敗である。九州南部の八代平原で行われたこの会戦において人類は生物兵器を使い同地の8割を焦土にして戦術的勝利をものにしたが同時に30万以上の将兵を失うことになった。1999年――国会において二つの法案が可決された。一つは熊本を中心とした防衛ラインの設置である。本州への上陸の絶対阻止を図る政府は熊本を中心として戦力の増強を行う。もう一つの法案は少年兵の強制招集である。14歳から17歳までの徴兵規定年齢に達していない子供たちが学籍のまま集められた。即席の兵士として熊本要塞に投入し本土防衛のための「大人の兵士」が編成されるまでの時間を稼ぐ。これら少年兵のほとんどが1999年中に死亡する――政府はそう考えていた。物言わぬ幻獣との戦争に飲み込まれる子供達。これはそんな子供達の物語である――【1巻作中より引用して改変】
登場人物
速水厚志
5121戦車小隊所属、速水厚志(ハヤミ アツシ)。第62戦車高校において半年間の訓練の後に前線に送られる予定であったが、戦局の悪化により、1ヶ月の訓練のみで5121戦車小隊に配属となる。配属後は人型戦車、士魂号の操縦者として非凡な才能を見せる。表面的にはとても穏やがだが、稀に見せる裏の顔は打算的。
芝村舞
厚志と同じく戦車学校を経て5121小隊配属となる、芝村舞(シバムラ マイ)。厚志の複座型士魂号に同乗し、火器管制だけでなく僚機への指示を行う。性格は尊大と言われるものの、他社に対してではなく己に求める努力家。国家運営にも大きな影響を与える芝村の一族であり、言動や言い回しが非常に独特。動物が好きな普通の女の子の一面もあるが、訳あって触ることは叶わない。
悠木映
5121小隊と同じ敷地にある尚敬高校の学生、悠木映(ユウキ アキラ)。尚敬第3小隊に配属され(非人型の)戦車兵を務める。好意を持つ厚志に対して積極的に仕掛けるなど、明るく活発な性格で、恋敵である舞にも真正面からぶつかることで心を開かせる。近所に住む年下の男の子が自身を守るために殺されたことで、幻獣に対する敵意は強い。
ロボット要素
士魂号複座型
人型戦車、士魂号(シコンゴウ)複座型。複座型の特徴は名前が示すとおり複座であることだが、一番の違いは背中に背負ったミサイルコンテナにある。また、単座型と比べると情報・電子機器も十倍程の性能を持つので、前線の司令塔の役割も担う。人型戦車は対幻獣の切り札、人類最強の戦闘兵器などと呼ばれることもあるが、故障率が高く、まともに稼働させることが難しいため、持て余し気味の兵器というのが現状である。
士魂号単座型
士魂号単座型。速水の同僚である壬生屋と滝川が搭乗する機体。(左の)壬生屋が搭乗する機体は、両手に刀と左腕に盾を装備し、(右の)滝川が搭乗する機体は両手にライフルを持つ。士魂号には戦局や搭乗者に合わせて武装を選択できる汎用性がある。
余談。小説版では単純な単座型という扱いではなく、壬生屋が重装甲型、滝川が軽装甲型とそれぞれ見た目も違う士魂号に搭乗している。
スキュラ
全長30m近くあることから空中要塞とも表現される中型幻獣の、スキュラ。眼の部分から放たれる長射程のレーザーは、戦車を一撃で屠る威力を持つ。スキュラの周りを飛んでいるヘリは、ロシアと日本が共同開発したきたかぜに、小型幻獣が寄生した、きたかぜゾンビ。この他にも戦場にあわせた数多くの幻獣が存在する。
作画
5121小隊の整備班の面々。描き分けは十分で、誰が誰か分からないことはないです。
キャラの作画は全体的に可愛らしく、男同士が顔を近付けただけで赤面描写が見られたりとぷちBL感があります。
戦車も人型戦車もカッチリした作画です。線が細くあっさりとして、構図もシンプルなものが多いので迫力はそれほどないものの、シンプルなだけに読みやすいです。
雑感
原作ゲームはちょろっと遊んだことがある程度で知識も殆どないですが、同ゲームの(榊涼介さんの)ノベライズ作品はかなり熱心に読んでいたので、作品の雰囲気はある程度理解した状態で本作を読んでいます。小説である程度の知識を持った状態の感想としてお読みください。
本作の特徴は登場人物一人ひとりが持つ二面性にあります。まっさらな知識で読むと怪しい電波を受信したのではないかと疑うほどに、別の人格が唐突に顔を覗かせます。最低限の知識を持って読んだとしても、困惑と違和感は覚えます。また、裏の部分に関しての説明も少なく、割と頻繁に特殊な単語が出てくるので、理解をより難しいものとしています。
二面性を欠点として捉えましたが、実は良点(美点?)でもあります。小説では二面性の部分はかなり隠しており、二面性があったとしてもそれは同じ方向を向いた、前向きな二面性でした。作品の大まかな流れを知っていた身でも刺激を感じられる部分であったし、新鮮な気持ちでガンパレード・マーチに触れることが出来るものだったので、個人的には面白い要素だったと思います。
ただし、これをガンパレード・マーチを全く知らない人が読んで楽しめるのかは甚だ疑問です。二面性の強さは突発的過ぎて置いてきぼりになるだろうし、全3巻と短いので、掘り込みの少ない部分は想像で補う必要があります。これらを問題なく消化できるのは、予備知識を持っている人だけなので、ガンパレ入門とするには厳しい印象です。楽しむためには別の媒体で最低限の知識を手に入れておくことが必須だと思われます(本作に限ってはググって知識を得ることをオススメしません)。
良くも悪くもガンパレの特異性が強く現れている一冊でした。
作品データ
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