小説感想記20冊目
2040年、東京は度重なる災害により、かつての面影はまったく見られぬほど荒廃していた。そんな東京を復興するため組織された「地球環境調査研究所」、通称『DC』。それぞれの夢と希望を胸に入隊した若者、ケン、ミズキ、リューネの3人。厳しい訓練と過酷な任務に追われる日々の中、ケンとミズキの間に微妙な変化が訪れる。お互いを気にかけながらも、素直になりきれない2人。一方リューネは、ケンの一本気で正直な心にうたれ、いつしか想いは恋へと変わっていく…。TVアニメのシリーズ構成と脚本を手掛けた酒井あきよしが、小説オリジナルの視点から描く人間ドラマ! 【1巻裏表紙より引用】
登場人物
安藤ケン
DCの隊員、安藤(アンドウ)ケン。16歳。威勢の良さが取り柄で直情的な性格であるため冷静さに欠けるが、打算を働かせるだけの頭脳を併せ持つ。東京は地震や津波、謎の爆発事故などで首都機能を仙台に遷都しなければならいほど廃墟と化してしまい、その様な環境破壊に立ち向かう組織、地球環境調査研究所、通称DC(ディバイン・クルセイダース)は神の十字軍として注目されるため入隊を望むものが多く、ケンもDCへの入隊を目指す。一次と二次の試験を突破し最終候補になるものの選ばれることはなかったが、合格者の一人が重傷を負ったことで補欠として入隊を認められ、DC三期生の一員となる。ケンの家族構成は父と妹の3人家族であり、妹のサユリは喘息持ちであるため身体が弱く、DCを志望したのは環境を良くしてサユリが暮らしやすい世界を作りたいと想ってのこと。父親の竜藏(リュウゾウ)はトップ屋。なにかと黒い噂の多いDCの背景を探ることに執着し、DCに憧れを持つケンとはソリが合わない。母親はカメラマンの仕事をしていたが、地震と同時に発生した白い閃光を写真に収めている際に事故で亡くなった。
上条ミズキ
ケンの幼馴染、上条(カミジョウ)ミズキ。父親の上条一徹(カミジョウ イッテツ)はDCの工場長を務め、DCの創設者であるフランク博士時代から在籍する古株。ケンとは口喧嘩の堪えない間柄であるが、一徹を含めてケンの家族と仲が良く、家族ぐるみで良好な関係を築く。潤一(ジュンイチ)という歳の離れた兄もいたが、大震災に巻き込まれミズキが生まれる前に亡くなっている。ミズキは成績も優秀であったことから憧れであったDCへの入隊を果たすが、地球環境の回復、環境保護を目指して入隊したことから急速に武装化するDCに困惑を見せ、ケンの父親である竜蔵に情報を流すなど独自の行動を起こす。その後、謎の怪物との戦闘中にリューネが乗るバルシオンを庇ったことで黒い球体の爆発に飲み込まれ、なんの痕跡も残さず消えさってしまう。DCでは死んだものとして扱われたが、異世界ラ・ギアスに飛ばされ生きながらえており、ラ・ギアスの自然豊かな様子と、地球から送り込まれた産業廃棄物で汚染されゆく現状を目の当たりにし、接触を果たしたマサキから真実を知らされる。
リューネ・フランク
DC設立者の娘、リューネ・フランク。17歳。DCの設立者にして父親であるアーノルド・フランク博士を9年前の事故で亡くす。フランク博士は死亡時で61歳だったため、リューネとは年齢の離れた親子であった。私財をなげうってまでDCを設立した父の意思を継ぎ、DCを背負って立ちたいと志すが、感情に任せた行動や発言をするなど精神的に未熟な面が目立つ。パイロットとしての素養はあることから作業用ロボット、RTのパイロットとしては優秀。父親が研究のために作り上げたロボット、バルシオンのパイロットになることを強く望み見事パイロットに選ばれる。
マサキ
ラ・ギアス出身の青年、マサキ。見た目から23、4歳ぐらいと推測される。ワームホールを通してラ・ギアスに送り込まれる地球の産業廃棄物によってラ・ギアスが汚染されていく状況を打開するため、精霊の神殿の神官頭であるゼオラの命で風の魔装機神、サイバスターを駆り地球に赴く。地球に行くことには成功したが、DCからは敵勢体と認識されたことで攻撃、被弾してしまい、富士の樹海へと不時着を果たす。重体の身となり倒れていたところを、喘息の悪化で富士の療養所を訪れていたケンの妹、サユリに発見され、サユリと同じ療養所へと運び込まれ手当を受ける。当初は誰とも話さなかったが、甲斐甲斐しく看病をするサユリに心を開き、自らの名を告げる。
シュウ・ゾルダーク
DC所長、シュウ・ゾルダーク。片腕には冷淡な性格のDC教官、サフィーネを据える。サフィーネと異なり部下に温情を見せるなど融通が利く性格をしている。DCはフランク博士によって2010年に発足し、2020年に発生した大地震の後にシュウはDCに入隊。2031年にフランク博士が亡くなるとDCの所長の椅子に座る。2040年時点ではDCの創設に関与した科学者の多くは亡くなっている。表面的にはフランク博士時代と同様の理念を掲げ民衆から支持を得るが、突如として現れた謎の怪物からの防衛を名目とし、DCを武装勢力へと変貌させてゆく。
ロボット要素
サイバスター
風の魔装機神、サイバスター。生物を思わせる外観をし、全長は20メートルほど。暗雲の中から突如として現れ、どこかの国の破壊兵器や外宇宙の生命体など噂され地球上に混乱をもたらす。精霊の力によって異世界ラ・ギアスから地球に現れた魔装機神であり、地球の兵器より遥かに高度な技術で作られている。DCの作業用ロボットRTでは歯が立たず、戦闘用ロボットであるバルシオンをも上回る。地球に現れた際の操縦者はマサキであったが、数々の異常現象を追う中で邂逅を果たしたケンが負傷したマサキに代わって操縦者に選ばれた。
サイバスターは精霊の力を借りて動いており、選ばれし者にしか動かせず、資格のない者はコックピットの装甲に触れただけで弾き飛ばされる。選ばれし者の場合は多少離れていてもコックピットに引き寄せられる。コックピットには操縦するハンドルやコンソールの類いは存在せず、操縦者の意思に合わせて動く。全身が錬金術のようなもので鍛え上げられており、多少のダメージであれば自然に回復するが、痛覚をパイロットと共有しているため、ダメージを受けると操縦者も傷ついてしまう。攻撃方法は肩から伸びるウイングによる斬撃と、風をかまいたちにして攻撃するものがある。
ジェイファー
火の魔装機神、ジェイファー。稼働状態であったサイバスターとは異なり、ラ・ギアスに存在する精霊の神殿で水の魔装機神ガッデス、大地の魔装機神ザムジードとともに眠る。戦力を増強するDCに対抗するためケンとマサキが精霊の神殿を訪れると、サイバスターの精霊はケンを選び、ジェイファーの精霊はマサキを選ぶ。契約の後にケンとマサキの二人が揃って念じることでラ・ギアスと地球間の移動が任意で行えるようになった。攻撃は炎の渦や炎の矢といった炎を使ったものによるもの。
バルシオン
DCの戦闘用ロボット、バルシオン。15m程の大きさ。フランク博士の研究を元にDC本部の地下で秘密裏に製造された。操縦はRTとほぼ同じ。基本武装は機関砲4門とワイヤークローのみであるためサイバスターに対して有効な武装とは言えず、科学班によって開発された荷電ビーム砲が追加で装備された。バルシオン単機ではエネルギーを賄えないためバッテリー用のダイナモを持ち運ぶ必要があるがサイバスターにも有効な強力な武器である。
バルシオーネ
DCロボットの原型となった、バルシオーネ。バルシオンの原型となった機体とされるが、フランク博士から一徹に製造を託されるも、フランク博士が亡くなってしまったため骨格までしか組まれなかった。本栖湖近辺の山岳地帯に位置するフランク博士の別荘の地下室に長年放置されていたものを、DCを離脱した一徹と、一徹が選抜した元DC技師5人の手によって、回収したバルシオンのパーツを元に組み上げられる。バルシオンとバルシオーネは骨格こそほぼ同じであったためパーツの使い回しが出来ただけでなく、フレームの耐久性やジェネレーターの出力は大幅な向上が図られ、搭載されたビーム砲はDCの新型戦闘用ロボであるプレシオンの電磁砲より速射性と射程に優れる。
プレシオン
戦闘用ロボット、プレシオン。DCの地下工場で秘密に作られていたバルシオンの改良機。バルシオンより一回り以上大きく、20m程あるサイバスターとほぼ同じ大きさ。性能面でもバルシオンの数段上を行き、荷電ビーム砲より使いまわしの良い電磁砲を標準で搭載する。また、同時に10基ほど製造され、パイロットには戦争のプロである、傭兵のダラスとその仲間たちが搭る。
イラスト
キャラの作画はシンプルであっさりとしたもの。パッと見の受けはあまり良くないと思いますが、不足には感じません。
問題はどちらかというと、キャラデザが元のゲームとは大きく異なっていることです。作品そのものに言えることでもありますが、元のイメージを引きずると色々と受け入れにくいものになります。
メカは質と量の両方で足りていません。メカを中心としたイラストの枚数自体が少なく、イラストになっているメカの数も少ないです。文章では形状について殆ど触れられていないため、イラストで補完されているとイメージしやすかった。
各巻巻頭に3つ折りのカラーピンナップがあります。本文の方ではイラストになっていないメカやキャラが載っているのでかなり助かります。
雑感
本作は全2巻と巻数で言えば少ない作品となりますが、2冊合計で600pを超えます。そして、かなりゆっくりとスローペースだと感じるほど丁寧に世界観や各キャラのバックボーンが描写されています。
本作はそのタイトルからわかる通り原作となるゲームが存在していますが、ゲームとの乖離の凄まじさから話題となったアニメを元とした小説です。それだけに違いについてまざまざと感じさせられるほど、丁寧に世界観やキャラについて書かれているのは非常に親切だと感じました。描写が薄ければゲームと比べてどうこうという話になりかねませんが、最初から大きく違うものだとわからされるので、ゲームと本作(アニメ)とを一緒くたにしてしまう危険性は殆どありません。
ゲームのイメージを持って期待して読むと大きな失望を伴うことになるでしょうが、一つの作品として見れば楽しめます。ジャンル的にはサスペンス? SF? 的なものになっており、戦闘の盛り上がりや単純な熱さのような熱量はありませんが、世界の謎、DCの謎、ラ・ギアスの謎をメインに楽しめる作品になっています。
文章の癖としては、文字のつなぎや区切り方に若干の癖があり、言葉の選択にも多少ながら違和感があります。しかし、脳内で置き換えることが容易なので読む分にはほとんど苦労しません。戦闘の描写はかなり淡白です。細かい部分はほぼ書かれず、大まかな部分だけが書かれています。逆に人間関係であったり、感情の機微は細かく書かれており、人間模様が色濃く出た作品となっています。
全体を見渡すと多少の疑問は残っているように思えるものの、ある程度は脳内で片付けられるため読後感も良いです。全2巻と巻数も少なく、様々な面で読みやすい作品でした。
作品データ
○
○
○
○
○
◎
100
表紙と外部リンク
余談
ネタバレに踏み込んだうえで真面目にゲームとの違いについて書いていきます。
共通項は登場人物の名前の一部、D・Cやラ・ギアス、魔装機神といった単語の一部くらいだけです。例えばマサキという人物にしても名前以外には共通点がありません。魔装機神にしても火の魔装機神がグランヴェールではなくジェイファーとなっています。また、ファミリアも出てこず、技名についても一つも出てきません。唯一、サイフラッシュは出てきますが、その効果はゲームとは異なり、本作では重要な存在とされています。
ロボットではグランゾンも出てきます。しかし、本作のグランゾンは量産されておりポコポコポコポコと出てきます。また、ロボットのパワーバランスも結構違います。魔装機神の性能も低いし、バルシオンも大したことはなく、バルシオーネも弱いです。敵味方ともに圧倒的な強さは感じず、魔装機神やグランゾンの機能の一部に特異性があるといったものになっています。
一部を切りとっても全体を見回しても、本作は元のゲームとは別物です。元はこうであるとか、こうあるべきは持ち込んではいけません。大きく違う別物です。そうして考えると本作は悪い作品だとは思えません。特筆した面白さを求められると困りますが、普通に楽しめる作品だと思います。こうして今でこそ客観的ぶった書き方をしてますが、アニバスターを初めて知った時は驚いたし、失望もしました。今だから平静な気分で感想が書けるのだと思います。
黒歴史や駄作という評価をされるかもしれませんが、ゼノグラシアなんかもそうだけど、看板が大きすぎたのかもしれませんね。
最後にもう一つだけ余談。
本文の方では画像なしとしましたが、左下の機体がプレシオン、中央下の機体がバルシオーネだと思われます。確信が持てず違ったら紛らわしいと思ったのでこちらに貼っておきます。
0件のコメント