アーク・ブラッド

小説感想記14冊目

事故に巻き込まれ重傷を負った明久。目が覚めるとそこは数千年後の未来だった!? コールドスリープが長引き《貴重な人類の原種》となっていた明久は、起きた途端『侵略体』に襲撃される。混乱の中、人類の防衛兵器である《女神》に少女とともに乗り込んでしまうが、普通は一人乗りの《女神》が予想外の強さを発揮。本来ならば撃退するのが精一杯だった侵略体を完全破壊してしまった!? ちょっと可愛い進化を遂げた少女たちに迫られながら『侵略体』と戦うことになった明久の運命は?【1巻裏表紙より引用】

登場人物

峰部明久

2020年生まれの高校1年生、峰部明久(ミネベ アキヒサ)。実の母親とは幼い頃に死に別れ、妾腹の子であったが実父の峰部家に引き取られ、実子と共に別け隔てなく育てられる。高校1年の夏、異腹妹の朱乃との帰宅途中に工場の爆発事故に巻き込まれ意識不明の重体となる。残された家族は脳に破片が刺さり現代医学では治療できないことを告げられるが、未来の医療技術に一縷の望みを託し、運用が始まったばかりの人工冬眠で延命を図る。そして、目覚めたのはおよそ3000年後、西暦換算で5012年の世界であった。遙かな未来では過酷な環境で生きるため、遺伝子操作を受けた種しかおらず、明久は原種人類、または始祖と呼ばれ、手厚く保護される。

峰部朱乃

明久の妹、峰部朱乃(ミネベ アケノ)。中学3年生。本妻の子供であるため、明久とは半分だけ血が繋がっている。生まれつき身体が弱く、時折発作を起こすため、幼少の頃より明久と一緒にいる事が多い。そのため、周囲からはブラコンだと冷やかされるが、本人も重度のブラコンであることは自覚しているため開き直る。中学では茶道部の部長を務め、夏をもって引退。夏休みの間に買い物に連れて行ってもらう約束を明久とするが、共に工場の爆発に巻き込まれたため、約束が叶うことはなかった。明久同様に人工冬眠での延命が図られ、未来世界で治療されるものの、元々身体が弱かったこともあり未だ目を覚まさない。

ミスズ・4506・アンウェルフ

半獣系の因子を持つ少女、ミスズ・4506・アンウェルフ。通称はミスズ。黒髪は肩辺りで切り揃えられ、すらりとした体型の少女。学生の身でありながら強化外装機官(エグゾルガン)で侵略体と戦い、素早い動きからの剣を用いた接近戦を得意とし、強化外装機官を装着しての突きは音速を超える。ミスズ固有の特能形質増幅機構(ジニアス・ブースタ)は筋力の増大と再分配。目的に応じて全身の形状を変えられ、さながら変身のよう。半獣系の因子の影響で喜怒哀楽が出やすく、身体的特徴としては耳が尖り、臀部から尻尾も生えている。生真面目な性格も影響しているか、可愛い下着が似合わないと思い込むなど、容姿の自己評価が低い。

ベルレッタ・1394・ヴァンピエール

明久の主治医、ベルレッタ・1394・ヴァンピエール。通称はベルレッタ。亜麻色の髪に耳は細長い三角形、眼は血を想わせるほど赤い。気品がありお嬢様然とした佇まいながら、目許の泣きぼくろが愛嬌となる。ミスズ同様に学生の身でありながら強化外装機官で侵略体と戦う。使用する武器は長さや硬さまで自在に変化させる、自在鞭(ユニバーサル・ラッシュ)。ベルレッタ固有の特能は念動。離れた物質を動かすことが可能で、明久の脳内の破片を取り除き、治療を施した張本人。主治医として治療にあたっていたためか警戒心が薄く、無意識に過度の接触をすることで明久を困惑させる。

余談。1巻のカラーイラストでは青色の瞳で描かれているが、文章中では赤とされている。2巻は整合性を取らせるため、通常時は碧眼とされ、特能を使用すると赤になるとされた(と思われる)。

ルコット・9111・ガルバメイド

ミスズ、ベルレッタとクラスメイトでチームメイトの、ルコット・9111・ガルバメイド。通称はルコット。左右でくくられた髪は透明感のある翠色をしており、見る角度によって違う色に映る。幼さを感じさせる外見だが、性格は勝ち気。ミスズやベルレッタと同じく学生でありながら、侵略体と戦うためにチームを組んでいる。使用する武器は水状の物質でできた球体のビット。特能は風の制御。風を制御することで竜巻を起こしたり、ビットの形状を変化させることで異なる武器とする。

明久が原種人類である事を知るミスズ、ベルレッタ、ルコットの3人は護衛を任されると同時に、明久の遺伝子を取り込むための花嫁候補の筆頭であることも伝えられる。現在の人類は遺伝子に問題を抱え、女性比率が極めて高まり、遺伝的な疾患も増えてしまっている。そのため、明久の遺伝子で補強したいと目論む。また、明久の遺伝子を受け入れる女性が多ければ多いほど良いため、学生の中から新たなる花嫁候補を探し、親密になるよう手助けをする役割も併せて命ぜられる。

ロボット要素

強化外装機官(エグゾルガン)

EX-ORGAN SYSTEM、強化外装機官(エグゾルガン)。サイズは約10メートル。胞子で汚染されたアークの船外、地球上での活動を可能とする。構造機質(マテリアル)で満たされた子宮筒(ウーム・シリンダ)に装着者(スピリット)が入り起動することで、筐体形成が始まり強化外装機官となる。薄い青色をした半透明の構造機質で全身が構成され、各部に金属を思わせる色合いをした追加装甲が装備される。細部は装着者に合わせて変化し、武装も装着者に合わせて形成される。構造機質は多少の損傷であれば自己修復するが、構造機質の3割が失われると維持できなくなり自壊してしまう。装着者は鳩尾の辺りに収まり、強化外装機官と感覚を共有し、損傷時の痛みは生体管理機構(マタボライザ)によって軽減されるものの、神経接続回路に雑信号が走ることで瞬間的な痛みを伴う。強化外装機官はXY型と女性用のXX型に分かれ、一人用でもあるため、異性は勿論、複数人での形成は本来は不可能である。しかし、明久だけは相手を選ぶことなく、共に形成することができ、さらに明久が持つ、特能を強化する特能により共に形成した人物の特能が大幅に強化される。また、男性用のXY型は稼働時間は長いが瞬発力に欠けるため、侵略体との戦闘に使われることはまず無い。そのため、強化外装機官の装着車を育成する戦術科のクラスには女性しかおらず、過去をさかのぼっても例外は数例しか無い。ミスズ、ベルレッタ、ルコットの3人は学生の身ながら強化外装機官を使うが、予備役として編成された優秀な装着者であるため。子宮筒を作る技術は既に失われた遺失技術に相当し、仕様書が残っていたので運用はできているが、新たに作ることは出来ず、現存数も少ない。

アーク

機動要塞都市、アーク。名称はノアの箱舟から取られる。太陽系外への移民を目的として作られたが、未完成の状態であるため飛ぶことはできない。現在は侵略体の胞子を防ぐ、人類最後の砦となっている。船内は市民のために自然環境が再現されており、昼夜の概念が存在し、植物が植えられ、人工の風も吹いている。全人口は100万人を切り、男女比は男性1に対して女性7と極端な比率になってしまっている。さらに若い世代では傾向がより顕著になっており歯止めが効かない。不妊率も上がり出生率も低下。遺伝的な疾病も増加傾向。遺伝的な限界状況を迎えている

侵略体

宇宙空間から現れる、侵略体。サイズは10メートルあまり。昆虫を思わせる外観ながら、つぎはぎにしたような異形の姿。星間航行時は幾重もの強固な殻に守られ地球に飛来し、地上への突入の衝撃は凄まじく、地表には大規模なクレーターがいくつも存在する。攻撃方法は巨大な節肢での打撃、または、節肢を切り離して飛ばす。急所となる機能中枢が存在するが、硬質と軟質の分厚い複合構造の装甲に、不可視の斥力場防御(リバルソン・シールド) で覆われているため、生半可な攻撃では致命傷が与えられない。損傷が大きくなると自爆し、胞子を撒き散らすため、とどめを刺し切ることも重要。胞子は遺伝子を汚染してしまうため、地球上の殆どは荒野となり、文明レベルを大きく下げられ、高度技術の多くは遺跡を発掘して得るしかない遺失技術と化した。強化外装機官と侵略体の戦力比は1対1。

イラスト

女の子の可愛さが全面に出たイラストが多いです。現代的な絵柄なので受けも良さそうですし、サービスカットも実は多めです。

残念なことに強化外装機官のイラストは表紙にしか描かれていません。また、キャラや文字がかぶっているためデザインもわかりづらくなっています。折角ちゃんとデザインされているのに細部が見えず勿体無いです。

モノクロのイラストは紙質の問題もあって潰れ気味でちょっと見づらいのですけど、カラーイラストは枚数こそ少ないもののとても綺麗です。

雑感

所謂ハーレム作品で可愛い女の子たちにハァハァするタイプの作品です。ハーレムができる状況設定は良くできていますし、女の子はちょろめだとは思いますが、違和感をそれほど気にせず楽しめます。

設定面がしっかり作られている印象なので、大きな驚きは無いのだけど読み応えも十分です。問題点としては2巻分しか出ておらず、もっと巻を重ねてこそ本質が見えた作品です。2巻まで読み終わった段階では伏線の配置が進んだものの、本線の消化は全くできていません。起承転結の起といったところなので、まだまだこれからというところなのに続巻がありません。

本作の欠点というか、違和感を感じたのが文章です。ベテラン作家さんということもあり比較的読みやすい文章だと思いますが、ダッシュ記号の使い方に関しては納得がいきません。1ページに数箇所という頻度で使われており、このダッシュ記号が本当に必要なのか疑問です。限られたポイントで使うのであれば理解できますけど、句読点の代わりに気軽に使われていて、邪魔だし面倒だし文章が不細工になっている印象です。本来は読みやすくするためのものだと思うのですが、個人的には読みにくく感じました。

文章の癖はちょっと気になりましたが、全体的に楽しめたし、気軽に読める作品だけにもっと巻数が欲しかったです。妄想で語るにも情報が足りないし、まだまだこれからといった印象が強いです。

作品データ

アーク・ブラッド
榊一郎
倉嶋丈康
中央公論新社 C★NOVELSファンタジア 2012/9 ~ 全2巻
イラスト 1巻9枚 2巻15枚







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表紙と外部リンク

アーク・ブラッド A.D.5000のアダム
2012年9月発売
アーク・ブラッド2 方舟都市の巫女
2013年9月発売
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