小説感想記13冊目
世界中に突如出現した『塔』と巨大生物群。その存在により日本は広大な無人地域を挟み、東西に分断されていた。2018年、東日本にいた十五歳の川中島敦樹は、軍の観測隊に選抜され『塔』を目指す。しかし率いた隊は『当初の予定通り』全滅。敦樹だけが西日本東部辺境である南兵庫へと逃れた。1960年代まで市民の生活水準が後退したその土地で、敦樹は学校に通いながら防災団の一員として活動を始める。同級生でもある仲間たちと、やがて人類再起へ向けた戦いの一翼を担うために――。『電撃hp』誌上に掲載された「まれびとの棺」前半に、書き下ろし二編を加え、新シリーズ、いよいよスタート。【1巻そでより引用】
登場人物
川中島敦樹
死した英雄、川中島敦樹(カワナカジマ アツキ)。福島政府が統括する東日本出身の少女。11歳の頃に両親を病気で亡くし、12歳になるまでの1年近くを児童養護施設で過ごす。その後は自らの意思で軍隊に志願。アンテムーサ効果への耐性を持っていたことから、難侵入地域(カタラ)の最奥に存在する塔(メテクシス)を目指す、三○四特殊観測隊に配属される。三○四特殊観測隊には剛粧(ごうしょう)に有効な新世代兵器、高度虚物質技術(デイノス)は与えられず、全滅の報告をもたらすためだけに塔の調査へ送り出される。福島政府の無謀な任務ですり減っていく仲間たちは西側への亡命を希望するが、対剛粧に消極的な西日本では人類は亡ぶだけだと考える敦樹は任務の継続を希望、仲間たちも一度だけの戦闘であればと協力を約束する。しかし、その一度の戦闘で謎の剛粧の奇襲に遭い、部隊は全滅。東側ではわずか15歳にして最奥まで踏み込んで死んだ敦樹を英雄、軍神として祀り上げたが、一人生き残った敦樹は仲間の最後の言葉を胸に西側へ亡命することを選ぶ。
西側では南兵庫の難侵入地域の境界線に近い、御茶家所町の御茶家所学校に通う学生となり、剛粧に対する防災団の一員としても活動を始める。西日本では高度虚物質技術の製造ができず、圧倒的な能力を得ることから使用するには製造者の福島政府の許可が必要となるが、摩擦変換推進、構造骨格機構、複層情報結合の3種の高度虚物質技術が与えられる。摩擦変換推進は時速100kmを超える高速移動を可能とする。構造骨格機構は高速移動にも耐えうる第二の骨格及び筋肉となるが、隙間が大きいため攻撃用の武器や防御用の鎧として使うには熟練の技術が必要となる。複層情報結合はゴーグルに地図や文字情報などを写す。武装は東時代と同じく刀であるが、西日本が独自に開発した模造虚物質技術(テクネー)と呼ばれる技術で作られた連装刀を用いる。柄を半回転させるごとに6種の剣を入れ替えて実体化でき、6種の剣は形状や重量が異なるだけでなく、たとえ1つの剣が折れようと、残り5つの剣に影響はない。戦馬鹿な面もある敦樹だが、暇があると趣味と実益とを兼ねて釣りをしている。
四方佐里
樋ノ口防災団の砲課職員、四方佐里(シホウ サリ)。難侵入地域の境界線内に存在する、樋ノ口町の廃校舎を住居兼事務所とし、樋ノ口防災団として活動している。境界線内に入れるのはアンテムーサ効果への耐性を持つものだけで、耐性を持たない者が踏み入れると全ての感覚が狂わされ、誘蛾灯に引かれる虫のようになり、大地か剛粧の養分となってしまう。樋ノ口防災団には敦樹も所属しており、寝食を共にする仲間であり、学校のクラスメイトでもある。眼鏡がないと何も見えないド近眼のため、銭湯に入る時は敦樹のサポートが必須。普段から掛けている眼鏡は特殊仕様で、無線接続された視聴覚インターフェイスの機能を持つ。砲課職員のため戦闘時は敦樹のように自らの肉体で戦うことはなく、多脚機動砲台パリカリアを用いて戦線に介入する。
春瀬文彦
樋ノ口防災団の歩課職員、春瀬文彦(ハルセ フミヒコ)。緊張感を感じさせない緩い性格でどこか忘れっぽいが、日記をつけるのが趣味。友達付き合いを大事にしており、敦樹と佐里のはからいもあって、通常の会議や重要度の低い訓練は免除され、学生生活に注力する。戦場での判断は早く、間違いも少ないため敦樹や佐里の信頼は暑い。戦場で使用する高度虚物質技術は調律打撃信管、可変空間装甲、複層情報結合の3つ。調律打撃信管はハンマーのような武装の信管として用いられる。機能としてはスピーカーのようなもので、信管を作動させると強烈な振動(衝撃)を起こす。可変空間装甲は予め登録された形状となるため、文彦は目に見えぬ壁として用いる。
畑沼清子
山陰共同体の連合知事、春瀬史郎(ハルセ シロウ)の門下生、畑沼清子(ハタヌマ キヨコ)。あだ名はキヨちゃん。幽霊剛粧を追って作戦顧問という立場で防災団と関わり、御茶家所学校に編入し、樋ノ口町の防災団の一員となる。初対面でこそ敦樹に敵対心を示すが、ただのいたずら好きなだけで、人懐っこい性格であるため人間関係の構築は上手い。また、優れた頭脳の持ち主であるため、対剛粧の城、尼崎迷路を作り出すなど従来とは違う作戦を展開する。砲課職員でもあるため、多脚砲台の二十四式を駆って戦場に出る。
ロボット要素
パリカリア
多脚砲台、パリカリア。目に見えぬ空間に格納されており、砲課職員の要請に応えて一種の召喚や転移のように出現する。パリカリアは試作型の多脚砲台で、全体を覆うように装甲板が付けられ、一般的な多脚砲台である二十四式より一回り以上も大きい。武装面は一般的な多脚砲台に近く、接近戦用にモグラの手の形をしたドーザーブレードを左右一対備え、主砲の強荷電粒子砲、側面には連射砲が付く。試作型であるためか、装甲の材質も悪いもので、ヤスリがけが容易にできてしまう。多脚砲台を扱う砲課職員は戦場に共に出て、巨大な鍵の形をした多目的制御棒で操作するが、操縦者保護のため遠隔操作も可能である。しかし、歩課職員と多脚砲台に砲課職員を守らせるのが一番合理的でリスクが少ないことから、戦場に出て多脚砲台の近くから操作する。
二十四式
現在最も使用者の多い車種、二十四式。樋ノ口防災団では清子が使う。六本脚、砲塔、ドーザーブレード、多目的制御棒による外部操作という点はパリカリアと共通であるが、無駄な装甲は少なく、すっきりとした見た目になっている。
剛粧(ごうしょう)
25年前より突如として世界中に現れた謎の存在にして人類の敵、剛粧。長野県と岐阜県の県境に何者かによって建造された全高37000kmの塔(メテクシス)より。おおよそ40日に一度の頻度である降下してくる。塔を中心として発生しているアンテムーサ効果の影響している地を縄張りとし、日本を中央で分断するように分布している。そのため、陸路での東西の往来は難しく、海路が主となるが、その海路もまた船の沈没が相次いでいる。剛粧の運動能力は高く、どれだけ遅いタイプ(種)でも時速は60kmを超え、強靭な卵殻(ケリュフォス)に守られているため、歩兵の通常武装では焼夷徹甲弾ぐらいしか有効な攻撃方法はない。塔からの降下直後は全身が卵殻に覆われており、自力で卵殻を破る必要があり、その名残として顔と関節以外は卵殻で覆われている。自力で卵殻を破れない小型の鳥類系の剛粧は卵殻の重さに耐えられずに死ぬか、他の剛粧に食べられる。そして、大型の鳥類系の剛粧は人に目もくれず他の剛粧を食べて空腹を満たすため、飛行系の剛粧と戦闘になることはほぼない。
幽霊剛粧(ファンタズマ)
東日本時代の敦樹が所属した三○四特殊観測隊を壊滅させた元凶、幽霊剛粧(ファンタズマ)。卵殻で覆われている以外の情報は無く、剛粧を発見するために備え付けられた生体レーダーでは観測できない。一般的な剛粧の知能は低く、動物並かそれ以下であるが、幽霊剛粧は人間並かそれ以上と予想される。幽霊剛粧が介在した戦線では、ありえないはずの小型の飛行剛粧が現れ戦線に異常をきたすなど、剛粧の動きが通常とは大きく異なる。剛粧の動きが変化した際に電磁波バーストが確認されることから、電磁波バーストで他の剛粧を操っている可能性が高いと清子は分析する。
イラスト
淡さが感じられる絵柄です。戦闘がメインの作品ですが日常描写も多いので、柔らかさと愛嬌があるのは、特に日常部分に良く合っています。また、カラーイラストも綺麗です。
キャラだけを見るとメカが中途半端になりそうなところですが、メカの作画も上手いです。本編中だけでなく設定画も豊富に掲載されているのでかなり楽しめると思います。
メカだけでなくキャラの設定画もしっかり載っています。特殊兵器も多く出てくるだけあって、設定画が多く載っているのは凄くありがたいですし、デザイン面もしっかりと作り込まれていることがわかるものになっています。
雑感
面白かった。設定が良く出来ていて、設定が物語に反映されているので日常の描写にも目新しさがあります。 文章の質も高いです。造語や独特なルビもそこそこある作品ですが、全く不快に感じないバランスなので、面倒くささは感じず、それでいで独自性があるのも素晴らしいです。
本作の残念な点としては構成の部分です。2巻分ありながら戦闘シーンが少ないと思います。戦闘の描写もスピード感があって良いものなんですけど、日常の描写が半分以上なので、読むスピードというでもそうだし、物語のスピード感も物足りなかったです。
また、謎が先行していることもあって、キャラ、特に主人公への感情移入が難しかったです。どうせ裏があるんでしょ、という感じに受け取れてしまうので、違和感の少ない解消が出来ていたらのめり込めたと思います。
気になる点はありますが、十分なクオリティを持っているだけに2巻で終わっているのが残念な作品です。一応の区切りは付けているものの、長編のうちの1エピソードが終わったに過ぎないため、物足りなさを感じずにはいられません。もっともっと読んでみたい作品でした。
作品データ
△
△
×
○
×
◎
25
表紙と外部リンク
余談
ネタバレとかはない普通の余談です。雑感で書くにはちょっとくどい感じがしたのでこちらで。
巻の構成はフルメタみたいに分けた方が読みやすかったと思います。1巻の後半と2巻の前半が日常パートになっているので、焦らされやきもきしましたし、流れが落ち着いて、勢いがなくなってしまった印象です。フルメタの名前を出したけど、読んでる感覚としてはガンパレの方が近いです(ガンパレも別けてますよね)。全滅前提で学生に戦わせたり、異世界からの侵略、未知の兵器、未知の存在、戦場に相反する日常、といった要素があるので、ガンパレが好きな人は惹かれやすいと思います。
また、今回はネタバレへの配慮がちょっと苦しかったです。2巻の中盤から出てくるあれがあれで、ネーミングセンスが厨二心をくすぐるので紹介したかった。2巻の巻末には設定画も載っているので画像も貼りたかったのですが、やりすぎになりそうなので自重しました。4巻まで出てれば躊躇なく紹介できたのに残念です。
0件のコメント