月巫女のアフタースクール / 月巫女のエンゲージナイト

小説感想記11冊目

月にあって世界を統べる【月巫姫(かぐやひめ)】の護衛士サテライツは、超兵器を自在に操るエリート集団。凛(リン)はそれをめざし学校に通う女子高生だ。学園祭の日、凛は死んだはずの親友・紬(ツムギ)に似た少女と出会う。ところが彼女は凛の目の前でテロ組織《OELF(オールフ)》に拐われてしまった。なんと、お忍びで地球に降りた【月巫姫】本人だったというのだ! 護れなかった親友の代わりに、必ず彼女を救うと誓う凛だが!? 少女たちの失われた約束が貫く浪漫的SF!【1巻裏表紙より引用】

登場人物

樋貫凛

月立月夜見(ツクヨミ)学園高等部衛士家1年A組、樋貫凛(ヒヌキ リン)。158cmと大きくはないが、均整のとれた筋肉の付き方をしているため、運動神経は抜群。度胸もあるが頭は良くない。掌には硬貨サイズの埋掌結晶(パーソナルキイ)を埋め込んでおり、月正規軍の特定兵器、月駆騎兵(セレネー)、夜統機(マナート)、境過殻(コテュス)が扱える。これら特定兵器を扱った訓練では、好敵手を自称する藤ヶ谷美雨(フジガヤ ミウ)との戦績は一方的で、非凡な才を見せている。月にある超名門校、迦具夜学院(カグヤアカデミー)に編入した幼馴染の櫛引紬(クシビキ ツムギ)と、紬は月巫姫(カグヤヒメ)になることを、凛は月巫姫となった紬を守るための月正規軍(カグヤユニバース)から選抜される12人の精鋭、姫護衛士(カグヤサテライト)になることを誓い合う。また、別れの際に兎型機属(ペットロボット)のうさぎさんを託されている。うさぎさんも紬と秘密の約束をしており、共に夢が叶う日が来ることを願う。

フェイ・クイン

10代目、月巫姫(カグヤヒメ)、フェイ・クイン。16歳。十二単を連想させる赤い衣装をまとう。月と地球の調停者という立場であり、地球に対しては母殺光(ママ・キラ)、月に対して迦具夜勅命権(ホーリーコマンド)で絶対的な権力を示す。左掌の埋掌結晶は玉桂の雫と呼ばれるもので、月光菩薩(チャンドラプラバ)の主砲、母殺光の発射解除の鍵を兼ねる。地球上生物の生殺与奪権を事実上握っている。迦具夜勅命権は月最高評議会(シンシュプリームカウンサル)の決定すら覆す。任期である5年の間に5回、無効条項(インヴァリードクローゼス)に抵触しなければ私利私欲であろうと何に使っても良い。現月巫姫、フェイ・クインが選ばれたのは弱冠15の時。若すぎることを危惧され、就任直後に民族紛争地域に母殺光を使ったことで、月最高評議会で問題になる。しかし、母殺光の発射によって歴史構造物が発見されたのを契機に、迦具夜調停軍(ユニバーサルハーモニー)による介入を行い、長きにわたっていた紛争をあっという間に終結させた。また、紛争で発生した難民を保護するために一度目の迦具夜勅命権(ホーリーコマンド)を使用する。民族紛争を華麗に集結させたことで月、地球問わず、民衆から圧倒的な支持を受け、類稀至宝(ワンダープリンセス)と称賛される。月巫姫は世襲制ではなく資質で選ばれる。また、選ばれるのは女性に限定される。月巫姫の制度が始まったのは60年前の地球であった泥沼の戦争、奈落大戦(アーサビスウォー)を月が終結させたことを発端とする。竹取物語のかぐや姫が5人の求婚者を退けたことから月巫姫と名され、停者として必要な絶対権力を与えられた。絶大な人気を誇る10代目月巫姫は着陸歴(アフターアポロ)191年12月15日、地球解放戦線(Our Earth Liberation Front)、通称OELF(オールフ)の爆弾テロの標的となる。後にマスケリン事件と名付けられたこの爆弾テロで、侍従の櫛引紬とゾーイ・チャオを失う。

玖珂葵

姫護衛士階位(カグヤサテライトナンバー) VI、玖珂葵(クガ アオイ)。22歳。月駆騎兵の天才操縦者で、神機奏者(マエストロ)の二つ名を持つ。凛も通う月夜見学園が母校で、第15回月夜見杯で好成績を収めたことで月にある超名門校、迦具夜学院に編入。姫護衛士まで上り詰める。地球出身の姫護衛士であるため、地球からの支持率を高めることを目的に広告塔として積極的に起用され、写真集も発売され人気を博す。任務時は姫護衛士団(カグヤサテライツ)の一員として、捧姫羽衣(セレスチャルローブ)を着用する。厳選された素材で作られ、機能性が極めて高い。武器は姫護衛士専用光撃銃、シャームングを携帯する。姫護衛士の埋掌結晶は特別なものであるため、反応速度を極限まで高め痛みを感じさせなくする、微刻覚醒(リミテッドトランス)が使える。また、薄型境過殻とも称される捧姫羽衣の能力を限界まで引き出すため、人工的な手術により骨格だけでなく、内蔵含む全身及び遺伝子まで改造されている。

山田一郎

月夜見学園普通科1年、山田一郎(ヤマダ イチロー)。16歳。眉目秀麗で爽やかな少年。一枚のハンカチを縁にして凛と知人になる。容姿から目立つはずだが、凛の友人で情報通の浅野奈緒子(アサノ ナオコ)は知らなかった。山田一郎というのは偽名で、誰にも気づかれずに任務を遂行することから、病原体(パサジェン)のコードネームで呼ばれるOELFの凄腕の暗殺者。月を目指し掌にデバイスを埋め込む少女のことを一般的には月巫女(シュレインムーン)と呼ぶが、病原体を含め月に嫌悪感を持つものは売誇手(サーヴィルハンズ)と蔑称で呼び、その最たる凛に激しい憤りを覚える。地球は月人(ルナリアン)からは月領地球(コロニー)と呼ばれ、静止軌道に存在する攻撃監視衛生、月光菩薩(チャンドラプラバ)の主砲、母殺光の驚異に常に晒されている。地球人(テレストリアル)が地這負狗(ボトムドッグズ)の蔑称で呼ばれるような現状を打破するため、OELFは月の最高権力である月巫姫を狙い、その大任を病原体が受け持つ。

ロボット要素

月駆騎兵(セレネー)

巨大人型兵器、月駆騎兵(セレネー)。体高はおおよそ8m、境過殻の発展系として開発された経緯を持ち、機動力と人型の特性を活かした汎用性に秀でる。外観は鎧騎士や拘束具を身に着けられた死刑囚を想像させる。装甲の材質は月誕合金(カグヤメタル)。宇宙では重装甲、地球上では軽装甲の仕様となる。武装は突撃銃(アサルトライフル)など。操縦者は姿勢制御装置(バランサー)と衝撃吸収固化膜(アブソーブングゲル)で強固に守られ、緊急脱出も可能である。地球ではマテラッティ社製訓練機、MIS-T4(ヴィーヴル)、リッケン社製のRSG-810(グランガチ)や、RSG-851(グランガチ改)などの機種が運用される。

境過殻(コテュス)

歩兵用強化鎧、境過殻(コテュス)。全身を包む、丸みを帯びて柔らかな外観ながら総重量は40kgにもなる。人工筋肉と圧力を利用して身体能力を向上させ、地球上で10m近い跳躍力を得ることから、少なく見積もっても生身の5倍以上は引き出せる。軍用であると更に高性能になる。人気スポーツ、壊敵蹴球(クラッシュフットボール)でも使われるが、一般には販売されておらず、指定区域外で着用すると問答無用で厳罰が下る。

夜統機(マナート)

月正規軍の単座式戦闘艇、夜統機(マナート)。外観は羽を広げた猛禽類を連想させる。機動性重視のため固定武装は20mm低反動砲2門のみ。敵機への攻撃だけでなく支援活動の諸々に使われる。

イラスト

キャラデザは文章から受けるイメージに近いため違和感がありません。また、柔らかい雰囲気がとてもかわいらしいです。

メカのイラストは1枚しかありません。作中での出番が少ないにしても寂しいです。

本作のイラストは各話の扉絵と、巻頭のピンナップのみです。また、扉絵のイラストは全てキャラ絵なので、キャラ以外の部分は文章から想像するしかありません。

ちなみにピンナップは綺麗なカラーイラストでです。

雑感

気になった点を書いていきます。50ページぐらいまでは造語の多さで読むリズムが全然出ません。とにかく造語が多く、既存の言葉でも違った読み方のルビが振られているので、覚えながら読むのはとても大変だと思います。また、地名が銀彩(ぎんだみ)や沃懸地(いかけじ)といった耳馴染みのない読み方(言葉)だったりして、とっつきにくい印象を受けます。着物の柄を伝えるのに、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホも題材にしたとか、そういった回りくどさもあるので文章を追うだけでも結構疲れます。

本作の肌触りは以前に感想記でも扱ったアルテミス・スコードロンと似ています。世界観こそ大きく違いますが、キャラ配置には共通性があって、主人公の凛の性格もかなり近いものがあります。違いも当然あるのですが、凛もどん底状態での行動は理解しがたいもので、感情移入が難しいものでした。

シリアスな場面でのゆるい会話が交わされているのも気になります。この場合、会話自体はあっても良いのですが、文章の方は緊張感を持っていてほしいです。そうすることで軽口を叩きつもしまるので、読む側としては自然と口元がニヤけるものです。また、凛の語尾が○○だよ、ではなく、○○だようと書かれているのも少し抜けた印象を受けます。

良かった点も書いていきます。設定にインパクトがあります。用語の多さに振り回されてしまった感はありますが、設定と物語がしっかりとリンクしているので読み応えがあります。また、1巻は特殊な単語に振り回されましたが、2巻は新しい単語がほぼないため、すんなりと読めます。そして、1巻と2巻で対比になっている構成が良かったです。1巻は地球側の汚さ、2巻は月側の汚さといった感じで、終始人間のしょうもなさがバランスよく書かれています。

そして、凛より周りのキャラに魅力があります。凛が自虐的になっている時に支えてくれる友人がいることは、凛以上に読者の支えになっていたと思います。凛のライバルキャラもかなり味があるので、周りのキャラ設定はかなり良かったです。

総評としては、全くオススメできません。未完作品であることもそうですが、ネタバレを避ける意味でも触れていませんが、2巻の印象が極めて悪いです。1巻だけならば世界観の新鮮さで楽しめますが、2巻を読んでしまうといったい今まで何を読んでいたのだろうという気持ちになり、読後感は非常に悪いものでした。

作品データ

月巫女のアフタースクール (1巻)
月巫女のエンゲージナイト (2巻)
咲田哲宏
松竜
角川書店 角川スニーカー文庫 2004/4 ~ 全2巻
通巻ナンバーは振られていないが地続きのシリーズ作品
イラスト1巻16枚 2巻15枚
判定表について。1巻だけであれば頻度△の総合値は50となります。2巻はかなり低いので2巻含めて頻度は×としました。






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表紙と外部リンク

月巫女のアフタースクール
2004年4月発売
月巫女のエンゲージナイト
2004年9月発売

余談(ネタバレ注意)

触れなかった不満を書いていきます。申し訳ないけど不満しか書いていないです。当然ネタバレには考慮しません。

うさぎさんの夢はどうして書いたのでしょう。1巻を読む限りでは無駄ですよね。2巻の迦具夜勅命権に丁度よいネタだと思ったわけですが使いませんでした。使い所はここしかないと思ったので、本当にもっと後の伏線だったのでしょう。そうだとしたら1巻では夢がある程度で留めておいて、夢の正体は書かないほうが良かった気がします。

本作の打ち切りは申し訳ないけど当然だと思います。2巻の印象が最悪です。申し訳ないけどフレーネミーティングは最低最悪です。おそらく作者さんと自分の間には乖離があります。まだ、こっちは世界観に馴染んでいません。月巫姫だけが使える勅命権があることもなんとなくでしか理解していないのに、それを他の人も使えますとかされても、驚きではなく白けるだけです。作者さん的には、そんなことできるの! すごい! とか驚いてほしかったのだと思います。自分は、えっ、としかなりませんでした。頭の中で不安定ながらも構築されつつある世界観がただ壊されただけでした。やるならもっと後のエピソードであって、地盤が固まっていないこともあって土台ごと抜けてしまいました。フレーネ家の人格ともども残念な話でしたので読んでいて苦痛でした。1巻で作った設定を2巻にして小刻みにリズムよく壊していくので、何が書きたくてこの作品を作ったんだろうと疑問に思ったほどです。

また、キャラの崩壊も深刻です。2巻で凛がにゃーにゃーと急に言いだして、気が狂ったのかとおもいました。疑問を飲み込んで読み進めると回想が入ります。お、やっぱり説明あるよなとなりますよね。えぇ、全く関係のない回想でした。そのまま読み進めましたが最後まで説明はありませんでした。なんで急ににゃあにゃあ言い出したのでしょう。

凛が情緒不安定なのも残念な要素です。ダウナーになりぶっこ壊し系になるので、うまく挽回させないと嫌な奴にしかならない。周りの友人である、澄や美雨はかなり魅力的でしたので、凛が食われてしまった感もあります。美雨のパワフルさは面白かったし、出番が少ないながらも澄は美味しいところを持っていきましたよね。その点、凛はうさぎさんのメモリーを自棄で消そうとしたところがスポットライトだったのは悲しいです。

本作は凛と紬の友情物語が主題だと思うのですけど、なんで二人の会話はオミットされているのでしょうか。お互いの状況を知った後の距離感が全然掴めなかったです。また、澄と凛の出会った当初のエピソードも入れて、凛の良さをもう少し書いたほうが良かった気がします。

正直なところ不満はまだ書き足りないです。不満以外にも玉桂の雫は継承しているものでありながらどうして2つあるのかとか疑問もありますが、もう終わります。不満ばかりで申し訳ありませんでした。

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