朽ちた神への聖謡譚

小説感想記8冊目

かつて「大崩壊」と呼ばれた時代に世界を救った神の化身【聖骸(アルビオン)】。ペリクリーズ王国公認の操鎧士を目指し王都にやってきた少年・マキトは、予想外の事態に遭い、受験に落ちてしまった。失意のマキトだったが、帰りに立ち寄った教導院の地下で、朽ちた化石を思わせる【聖骸】の中で眠る謎の少女・ククルと出会う。その時、突如災いの源【渦獣(カラミティ)】が襲来。そして、少女は囁いた――「こづくり、しましょう?」と。その言葉が、止められた「神話」を覚醒させ、白銀に輝く神の化身〈クロウクルワッハ・ユリゼン〉に命を吹き込む。少年と少女が神の化身を操るとき、長き眠りから醒めた「神話」が咆哮を上げる――。悠久の刻を紡ぐ王道クレイドル・ファンタジー!【1巻裏表紙より引用】

登場人物

マキト・メイフィールド


田舎村出身の少年、マキト・メイフィールド。両親とは幼い頃に死に別れた孤児である。孤児院では弟や妹の面倒を見ていたが、機鎧(ラウンド・ギア)を操る操鎧士(ラウンダー)になることを志し、ペリクリーズ王国の首都にある教導院の入学試験を受ける。機鎧のシミュレーターである演舞(ロンド)では大きな大会で優勝するなど、優秀な成績を残していたが、実技試験の最中に体質的に魔力が極めて弱いことがわかり、実際の機鎧を動かすことができない身体であることが判明する。夢砕け、地元への土産話に聖骸(アルビオン)を一目見ようと忍び込みんだ教導院の地下で、聖骸の中に眠るククルと出会う。ククルとこづくりを行ったことで、南の聖骸の詠士(ドルイド)となり、教導院への入学を女王より認められる。教導院入学後の学生寮ではククルと同室であることを女王によって条件に課され、男ながら女子寮に住まうことになる。農民出身だけに農作業で肉体は鍛えられ、故郷の演舞場で師範と呼ばれる人物に稽古をつけられていたため、格闘技に多少の覚えはある。

ククル


南の聖骸の謡巫女(バルド)、ククル。聖骸の操縦席で眠っていた、銀色の髪と琥珀色の瞳が印象的な美少女。ククルの存在は王家の伝説に残っており、女王からは聖謡(せいよう)の巫女と呼ばれるが、記憶喪失のため本人にその自覚は無い。王家に伝わる伝説から600歳以上と考えられているが実際の年齢もわからない。名前も覚えておらず、ククルという名前もマキトによって、聖骸の名前から取って名付けられたものである。記憶がないだけでなく羞恥心もないため、こづくりではマキトを積極的にリードする。日常生活では、お風呂の入り方や着替えの仕方、さらに下着の履き方までマキトから丁寧に教わる。

レティシア・アブソリュート


教導院の操鎧科の学生、レティシア・アブソリュート。髪型は螺旋とも評される縦ロールに、お団子まで付いた金髪。絶対の清浄を意味する白い盾を家紋とし、建国当初から国を支える名門中の名門である、アブソリュート家のご令嬢。ペリグリーズ王国の若き女王、オリヴィアとは幼馴染で、マキトとククルのお目付け役を任される。女子寮ではマキトとククルの部屋の隣室の住人でもある。古典的な貴族の考え方の持ち主だが、誇り高い貴族を目指しているためか、見下すような振る舞いは控えている。ポンコツ気質であることを自他ともに認めており、興奮するとお兄様ーと繰り返しながらその場で回りだすという変わった特性がある。カノンという名の2歳上の兄がいる。カノンは法術院では天才と呼ばれ、学生ながらに精鋭中の精鋭である近衛兵団、守護竜牙団(ドラゴン・トゥース)の一員として活動をする。

アーリー エセルドレーダ


東の国、ウィンザー連邦の聖骸の詠士と謡巫女、アーリーとエセルドレーダ。

(左)東の聖骸の詠士、アーリー。真っ白な髪と鋭い目つきが特徴的な少年。見た目に違わず、口が悪く、ぶっきらぼうである。実験で薬物投与をされ、その副産物として特殊能力を秘めた魔眼を宿す。極度の甘党。

(右)東の聖骸の謡巫女、エセルドレーダ。通称はエセル。黒髪、褐色肌の少女。コボルトの異族(デミヒューマン)であるが、東の国は異族の国であるため、アーリーの方が珍しい存在である。アーリーからは駄犬と呼ばれ、犬扱いされることに反発しているが、犬並みかそれ以上の鋭い嗅覚を持つ。

ロボット要素

クロウクルワッハ・ユリゼン


ペリクリーズの聖骸より生まれし、クロウクルワッハ・ユリゼン。聖骸の名前が示すとおり、起動前は操縦席だけの骸である。詠士と謡巫女の二人によるこづくりが行われることで、魔素(エーテル)から四肢や装甲を作り出す。生まれた直後は武器を持たないが、原初の法(ロスト・コントラクト)を使い、周囲の力や相手の攻撃を反転させることで剣や弓といった武器を作り出す。ククルの原初の法は反転もしくは円環といわれる。原初の法の第一術式、メビウスリンクでは属性を反転させる。第二術式(セカンドシフト)、サーキュラースイングは巨大な輪を作り出し、触れるものを輪に沿って逸らす。

ユリゼンは、高度文明を滅ぼした審判の獣(パニッシュメント)を封印した4体の聖鎧(アルビオン)の1体。アヴァル諸島は4つの国からなり、封印後はそれぞれの国で聖骸が管理されている。ユリゼンは南の国ペリクリーズに保管された聖骸で、審判の獣を封印してから600年もの間、安置されていた。伝説では赤色であったとされるが、マキトとククルのこづくりで現れたクロウクルワッハ・ユリゼンは白銀色をしている。また、その外観は竜を想起させるものである。ククル曰く聖骸に決まった形はなく、詠士と謡巫女の組み合わせによって全く別の形となるとのこと。聖骸を元にして作られた機鎧との違いは複座型であること。そして、起動前にこづくりという名の口づけが必須であること。

ガンドッグ・ルヴァ


ウィンザーの聖骸より生まれし、ガンドッグ・ルヴァ。真っ黒な装甲に、真っ黒な銃での遠距離戦を得意とする聖骸。ガンドッグ・ルヴァの放つ弾丸は魔弾と称されるほどの威力を持つ。エセルの原初の法は影よりあらゆるものを生み出す。第一術式、ナイトハントは強力な銃撃。第二術式、シャドウディバイダーは暗色の弓から放たれた矢があらゆるものを喰らう。また、気配を断つことも得意としている。これらエセルの原初の法に共通するのは猟にある。

機鎧(ラウンド・ギア)


機鎧(ラウンド・ギア)。人類の天敵である渦獣(カラミティ)と戦うために聖骸を参考にして作られた。性能は聖骸には及ばず、渦獣1体に対して機鎧6体で当るのが一般的である。操縦は、操縦席の両脇に備えられた機甲(ガントレット)に手を通し、意識の接続を行い動かす。ファルの心髄と呼ばれる鉱石を加工した、ダグザ・ドライブを動力源とし、動かすには多くの魔力を必要とする。ペリクリーズでは防御を担当する重装型のドライグと、攻撃を担当する汎用型のミスルトが主力機となっている。現在では量産体制と育成組織が整備されたことで、市民出身の操鎧士多くなったが、元々は貴族が扱うものと考えられており、その名残は今も残っている。

イラスト


可愛らしいイラストが多めですが、同時に肌色率が高めのイラストも多いです。肉感は抑えられた絵柄なので、可愛らしさとエロさのバランスが作品に丁度合っている印象です。


メカは硬質さを感じさせる、ガッシリとした絵柄です。主人公機のイラストはそこそこありますが、敵機や量産機のイラストがほぼ無いのは残念です。ロボットの出番が多い作品の割に、イラスト的には美味しい部分が少なめです。


モノクロイラストだけでなく、カラーイラストも多めです。カラーイラストに苦言を呈させてもらうと、ネタバレを考慮していないので、先に見ると損した気持ちになります。イラストだけであれば想像、妄想の余地の部分ですが、文字(文章)で展開がわかってしまうのがかなり残念です。イラストの質については全く問題ありません。

雑感

骨と皮の作品。筋肉も贅肉も足りていません。テンポよく話が展開されるので読むのは楽ですが、繰り糸が見えてしまっているので雑な印象を受けます。設定はしっかりとあります。ただし、描写量の不足から世界観に反映されておらず、世界観に広がりは感じられません。

葛藤の描写も蛋白です。書きすぎれば重くなりますけど、書かれていないと軽すぎます。主人公の切り替えがとてつもなく早いので、感情移入をしながら読むのは難しく、多くの読者は置いてきぼりになるのではないでしょうか。

本作は総じて客観的ということです。主人公自身が客観的な視点を持って物事を颯爽と解決してしまうので、読者がどこまでも読者でしかありません。また、読者の想像の余地を尽く奪いながら話を進めている印象なので、読みながら考えることもなく、終始文章を追っているだけになっていました。文章自体は読みやすいです。たまに校正不足を感じられる単語の選択や描写の欠如はありますが、文章自体に強い癖は感じません。

本作は偏に表現力不足。偏に構成力不足。肉付け前の脚本を読んでいる印象で、小説と呼ぶには蛋白でした。

作品データ

朽ちた神への聖謡譚
内田俊
メディアファクトリー MF文庫 2013/4 ~ 全4巻
イラスト 1巻19枚 2巻19枚 3巻18枚 4巻19枚







100

表紙と外部リンク

朽ちた神への聖謡譚
2013年4月発売
朽ちた神への聖謡譚 2
2013年6月発売
朽ちた神への聖謡譚 3
2013年11月発売
朽ちた神への聖謡譚 4
2014年2月発売

余談(ネタバレ注意)

余談長くやります。ネタバレも含めて結構愚痴りますので、これから読む予定のある方はバックでお願いします。

さて、始めさせてもらいます。本作はライトライトライトノベルです。深く考えることを否定してきます。こちらが考えを巡らせる前に主人公が勝手に答えを出すことは先程書きましたが、それだけでなく、伏線かと思われたものが最後の最後まで全く消化されません。読み終わってというか、読んでいる途中から感じていたことですが、とにかく頭を空っぽにして読まないと駄目です。

あるがままを受け入れられるか、こちらの度量を試してくる作品です。些細なことにツッコまない、大きなことにもツッコまない、とにかく受け入れる。そうして、本作は読み続けられるのです。もし些細なことにツッコみながら読んでみてください。絶対に途中で気持ちが折れます。2巻まではそれでもいけます。ただ、3巻からはこちらを完全に飲みに来るので、油断したらあっという間にやられます。弱い気持ちでは駄目なんです。

ここまで読んで、全否定していると思われるかもしれません。しかし、自分は本作を読む前に別の作品でギブアップをしました。その作品と比べれば本作は読めます。だめな部分は目立つけど本作には良い部分だってあるんです。

こづくりという設定は良かったと思います。また、聖骸が特定の組み合わせに依らないというところも良い味を出しています。別の作品名を出してあれですが、アクエリオンの合体をよりわかりやすく、よりビジュアル的に、より刺激的にしていると思います。勿論アクエリオンの設定も好きですけどね。

残念だったのが、攻略した女の子のポイ捨てです。2人目のヒロインであるレティシアのことですね。3人目であるラニは4巻でもそれなりの見せ場があったとは思いますが、レティシアは都合のいい女って感じで、読んでいて不憫でした。一方的に好意を振りまいているだけで、マキトからは全然愛情を示してもらって無くて泣けてきますよ。あと、レティシアの設定でいうと先輩は要らなかったかな。本編の扱いを鑑みるに、先輩とレティシアを足して丁度よいくらいだったのではないでしょうか。

と、ここまで書いて気付いたけど、レティシアが男設定だけど実は女の子となると、某なんとかストラトスと被ってしまうのか。どうなんでしょうね。自分はあんまりそういうことは気にしないのですけど、やっぱり避けてしまうものなのかな。

話は変わりまして、設定の取りこぼしはかなり気になりました。西の聖骸はどうしたんでしょう。思わせぶりな発言だけ残して全くの出番なし。活躍できるチャンスはいくらでもありましたよ。なんで出てこないんですかね。中央の聖骸は四方の聖骸を統べる役割(ちょっとニュアンス違ったかな?)云々もあったではないですか。その設定はどこに行ったんでしょう。ブラフ的な発言で深い意味はなかったということなのかな。

次に、マキトの魔力の設定は何だったんでしょう。本当にたったそれだけという話です。魔力が戻ってきてなにかあるのかと思ったら、稼働時間が伸びたよ、やったね、だけですよ。ある意味リアルで、求めていないリアル感ですね。

あと、ククルが目覚めた要因は単純に時間ということですかね。カノン先輩が訪れたときは目覚めなかった云々みたいな描写がありましたよね。ククルの目覚めにマキトの魔力の設定が絡んでくるかと思ったら絡んでこない。別の設定があるのかと思ったら特に無い。うーむ。

設定面の粗も問題ですが、本作の一番の問題点はラニさんです。ラニさんのおかげで3巻がキツいキツい。ラニさんは機鎧大好きっ娘という設定のキャラです。そのため、未知の東の国の機鎧見たさに密航し、厳重な警戒をくぐり抜け基地に侵入し、見つけた機鎧を分解します。そして、翌日には組み立てに行きます。まぁ、ここまでは理解できますよね。問題はこの後です。この後の主人公の内面描写が面白い。「これだけの熱意を否定するなんて、俺にはできない。シンプルな理由だからこそ共感してしまった。」

共感できねえよ。自分には何一つ理解できないよ。密航まではそういう展開もあるよねとなりますが、その後は全てがぶっ飛びすぎてて、何がなんだかわかりません。なんというか凄い、とにかく凄い。

本作には他にも気になった点はいっぱいあります。空気の読めない会話の挿入だったりとかあるんですけど、ラニさんの前では全てが小さいことになってしまいます。ラニさん凄い。

最後に余談の余談です。1巻116pに「腕をWの形にする」という文章があるのだけど、これどういう形でしょうか。自分の貧相なボキャブラリーでは全然イメージができません。ご存の方はこっそりと教えてください。

はい、以上です。余談がメインでしたね。批判的な部分が中心になってしまったことは申し訳ないと思います。ただ、それでも全巻を読んでの感想だし、どこにも魅力がない作品ではなかったということです。魅力が感じられない作品は申し訳ないけどギブアップします。正直なところオススメは全くできない作品ですが、それでも全く価値のない作品だとも思いません。

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