アプロス天空の章

小説感想記6冊目


浮遊世界アプロスへようこそ! 乳白色の大気におおわれた世界アプロス。そこには精霊石が産み出すアームの力に支えられ、大空を浮遊するいくつもの大陸があった。人々は飛空船や飛空装甲に乗って大地の間を行きかう。そんな世界を舞台に、若き女法術士キースリンと、精霊石を産み出す天の巣で育てられた謎の少女ムタアの物語がはじまる。ログアウトが送り出す新進気鋭の作家、人魚蛟司の記念すべきデビュー作。【裏表紙より引用】

登場人物

キースリン・テオフェル


ラプスカチャ法術院の学生、キースリン・テオフェル。15、6歳の少女。4姉妹の三女であるが、母親は皆異腹という特殊な環境で育つ。姉妹とは性格も全く違い、髪が赤毛であることくらいしか共通点がない。家族仲が悪かったため、母親の出身で遠い地でもある、高名なラプスカチャ法術院に入る。法術院では生物法術を専攻し、法術員を動かす大賢老の一人、オルテ・バヴェクの下で生態について学ぶ。法術院の授業の一環で、飛空船で無人島に向かっていたところを、衝角鯱(しょうかくしゃち)に襲われる。船は大破してしまったが、天の巣の虫たちに助けられたことでひとり生きながらえる。天の巣には人と意思を交わせる巣の母がおり、巣の母と意見交換を行っていたその最中に、精霊石を求めたベルゴナン帝国の奇襲に遭ってしまう。無残なまでに蹂躙された天の巣からの脱出するものの、人相が割れてしまったことで天の巣に連なるものとして帝国から追われる身となる。

ムタア


天の巣の使い、ムタア。華奢な体に透明に近い金髪の少女。外見的には、15、6歳に見える。一見普通の人間であるが、両こめかみから伸びた触角が異相であることを示す。触角は挿すことで挿した相手の記憶を複製できるだけでなく、相手の視神経に異常をきたす成分を送り、落ち着かせることも可能であり、堕落させることも可能である。ムタアは胎児の状態から天の巣の母に育てられ、両こめかみの触覚も巣の母によって与えられた。ムタアは人と巣の意思を翻訳することができる唯一の存在であり、帝国は天の巣を見つけるための道具にしようと目論む。天の巣の中にはあらゆる機械の動力となる精霊石、それも良質なものが多く採れるとあって、その存在価値は計り知れない。ちなみに、ムタアという名は本来の名前ではなく、便宜的に使われている名前である。

セタ


風の民、セタ。20代半ばのほがらかで落ち着いた青年。短く刈り込まれ、後ろ髪だけを長く編んだ黒髪が特徴的。風の民には奇生(きな)りの一つで風を起こす、風生り(風呼び)を使える子供がよく生まれ、その中でセタは一族最強の風呼びといわれる。飛族退治専門の騎士で最強と名高い、金の翼団の一番槍、風生りの黒い風車(ワーガルド)と帝国では恐れられる。機械を嫌う風の民の中では飛空機械を所持する異端児でもある。

ガリーカ・キーヒャ


霊鳥騎士団紅雀(べにすずめ)公、ガリーカ・キーヒャ。七羽の小鳥公の一羽。外見年齢22、3歳、豹を思わせる赤毛の美女。キーヒャ公国の大公の娘で、貴族である。奇生りの一つ、任意の一点で光を爆発させる、輝生(てるな)りの使い手。奇生りであるだけでなく身体能力も抜群で、国許では素手で牛を殺したと噂される。卑怯を卑怯と思わず、目的のためなら何でも利用する人物。その傍らには常に2人の人物がいる。一人は異母妹のメラーカ。姉のガリーカとは真逆のおっとりした人物で、やわらかい印象を与える美人。もう一人は従者のハル・イスク。従者の役割だけでなく、サンドバッグから灰皿の役割までこなす。彼ら二人を引き連れ、上皇の命で紅雀隊を率い、キースリン、ムタアの追跡に動く。

鸚鵡(おうむ)、蜂鳥(はちどり)、夜啼鴬(ナイチンゲール)、孔雀鳩(くじゃくばと)、雲雀(ひばり)、金糸雀(カナリヤ)、紅雀の七公を合わせて、七羽の小鳥公と呼ぶ。霊鳥騎士団の隊長である七羽の小鳥公を率いるはベルゴナン帝国上皇、リグダ・シャダム・ベルゴナン。傭兵から成り上がり皇帝までのぼり詰めた人物で、怪物、魔王、暴龍、食人鬼など多くの二つ名を有する生ける伝説。

ロボット要素

黒い風車(ザイ・スーヒム)


セタの飛空装甲、黒い風車(ザイ・スーヒム)。風の民の言葉では黒い風車をザイ・スーヒムと呼び(読み)、帝国の言葉では黒い風車をワーガルドと呼ぶ(読む)。全長15mぐらいの平均サイズの飛空装甲。真っ黒の装甲をし、真っ黒の騎兵槍を扱う。飛行用の白い翼に縫われた、白鳥の翼を広げたベル金貨は金の翼団の証である。黒い風車最大の特徴は騎士であるセタの存在にある。風生りの力を活かし、性能以上の機動力を発揮する。

深紅の戦慄(バキナ・ブラゾナ)


ガリーカの飛空装甲、深紅の戦慄(バキナ・ブラゾナ)。メヨドーム法術院によって作られたガリーカの専用機。腕部内部に対戦艦用の鉤爪が隠され、両手両足にも強力な鞭が内蔵されている。霊鳥騎士団紅雀隊の戦艦、深紅の恐慌(バキナ・リュグロナ)に搭載、運用される。

人形の城(キア・ダヌーン)


金糸雀公ソガ・ケイオナの飛空装甲、人形の城(キア・ダヌーン)。顔のような物体が浮かび上がる鋼球に、上部には翼を広げた女性型の上半身が飛び出す異形の機械。大きさは戦艦級で、人形の城内部には異形の飛空装甲が大量に搭載されている。七羽の小鳥公が属する霊鳥騎士団の兵器はメヨドーム法術院によって作られるが、人形の城だけはソガ自身の手によって作られた。呪われし狂王子、天才ソガ・ケイオナは不可能であるはずの無人の機械を操るすべを知り、操縦桿などの類を使うこと無く、人形の城を動かす。

イラスト


人物絵は正直なところ魅力を感じないです。絵柄として派手さに欠ける印象なのと、キャラデザも作品の雰囲気の割に渋く感じます。


本作は設定画が豊富に載っています。作中に出てくる主要メカの多くは揃っていますのでありがたいです。また、デザインも非常に尖っていて、本作ならではを味わえます。


メカはデザイン性も豊かで面白いのですけど、一つ問題があります。設定画が主で、挿絵はほぼ人物のカットです。漫画と違い小説なんで求めることがおこがましいと思いますが、動きのあるカットが無いのは残念でした。本作はそれぞれの機体に特殊ギミックがあるだけにイラストで見たかったです。

雑感

超濃厚ファンタジー。読み終わった直後は細かいことは思い出せず、情景が走馬灯のように浮かんでは消えていきました。とにかく濃い。いつものと頼んだら、並盛りではなく特盛りが出てきた、そんな感じです。

全1巻ながら展開が早い。始まりから終わりまで事件の連続で、休まるときが殆どありません。全3巻とか全5巻ぐらいでやる内容を、一冊の本にぎゅうぎゅうに詰め込んでいます。詰め込まれているだけに濃厚で面白いです。ただし、1巻に詰め込まれているだけに、面白い世界観を味わい尽くせなかった無念もあります。

気になった点も挙げさせてもらいます。戦闘の場面は迫力があって良かったのですけど、神々の戦いになりすぎていたのは気になりました。力と力のがっぷり四つという場面が殆ど無く、戦闘が多い割に盛り上がりきらなかったです。

あと、文章がちょっとひっかかります。どこがどうといえるほどの文章力がないので具体性はありませんが、状況、風景、情景を把握するために一拍必要でした。描写を自分の頭の中でしっかり組みながら読まないと理解が追いつきません。

ジャンル的にはファンタジー作品ですが、注意点がいくつかあります。本作はファンタジー作品ながらバイオレンスの傾向もあります。必要以上のえぐさはないので胃液が逆流する感じはないですが、一歩歩けば死体の山、二歩歩けば臓物ぼとぼとするので苦手な人は注意が必要です。

もう一つ、情報の奔流は覚悟してください。富野作品なんかに触れたときに起きるアレです。最初の方は1ページ捲るたびに未知の単語が次から次へと出てきますので、しっかりと向き合って読み進める必要があります。途中からは純粋に物語と向き合える余裕を持てるので、最初だけは意識して読むといいかなと思います。

全1巻ながら本当に濃厚でした。物語は濃厚。世界観は濃厚。登場人物も濃厚。戦闘場面も凄く多い。とにかく濃すぎる作品でした。1冊読んだだけでとんでもない疲労感を感じます。物語はしっかり纏まっているので消化不良感はありませんが、一冊で完結しているがために満足感という意味ではちょっと物足りませんでした。

作品データ

アプロス天空の章
人魚蛟司
もりき靖泰(森木靖泰)
アスペクト ログアウト冒険文庫 1994/1 全1巻
イラスト計15枚(設定画などを含む)
アプロス大地の章を原作とした小説(ゲーム未所持未プレイのため比較不可能)







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表紙と外部リンク

アプロス天空の章 巣と風の母
1994年1月発売
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