小説感想記4冊目
「あなた名前は?」「は、はい。久藤春音(くどうはるね)。戦術科一年生八番です」トイレで居眠りをしたあげく『練女の至宝』一ノ瀬先輩と廊下で激突? という情けない出会いをした春音。この時、彼女は予想もしない未来への扉を開けてしまったのだった――。2272年。MAPLE(アジア自由経済共同体)の誇る女性士官養成学校、通称『練女』。“機動装甲(モバイル)”を疾駆し命を賭して戦う未来のため、過酷な訓練に励む少女達の汗と涙と友情と熱血の日々。俊英が瑞々しく描く青春学園ストーリー開幕!【裏表紙より引用】
登場人物
久堂春音
練兵女学院の戦術本科1年、久堂春音(クドウ ハルネ)。あだ名はしゅんみん。本人評価は低いが、身体能力は高く、特に動体視力と平衡感覚は頭抜けて高いことから戦術本科の裏ホープと呼ばれる。反面、座学は苦手としており惨憺たるもの。練女内では学科毎のカリキュラムとは別に、部隊を作り訓練を行う制度となっており、春音は憧れの一ノ瀬沙希に誘われたことで、沙希の所属する白鳳(フェニックス)への加入を希望する。14歳の少女ということもあってか落ち着きに欠ける性格で、ミスにミスを重ねてしまう。そのため自分に自信を持てず、被害者意識も強まるなど、ダウナーな傾向を持ち合わせる。寄宿先の蒼月寮の同室は整備科の、藤枝麻由美(フジエダ マユミ)。平民出身同士であるため気心がしれており、気遣いのできる麻由美に助けられている。
一ノ瀬沙希
戦術本科2年、一ノ瀬沙希(イチノセ サキ)。2年生にして学園を代表するまでに上り詰め、練女の至宝と呼ばれる。名門貴族、一ノ瀬家の長女。父親は上院議員を務める。学内での所属部隊は白鳳。白鳳では1年時からエースとして活躍するが、年功序列重んじる部隊でもあるため、部内では軋轢が生じている。強い仲間を求めており、春音に声を掛けたのもそのため。機動装甲の扱いは華麗にして優雅、何をやらせても優れていることから練女内での憧れの的となっている。完璧人間に思われるが、他者の気持ちや弱さが理解できないため、先走って暴走しがち。
片桐千夏
操機科の1年、片桐千夏(カタギリ チナツ)。通称はちーな。服装や髪型から年以上に子供っぽさが見られる。学内部隊は白鳳に所属。千夏は操機科の3年、月島(ツキシマ)ミカの勧誘で白鳳への所属を決めた。本人曰く成績はそれほど良くないとのことだが、射撃の腕にだけは自信を持つ。明るい性格で誰とでも打ち解けるのが早いが、どこか掴みどころがない。
ロボット要素
機動装甲(モバイル)
戦術本科生が運用する巨大な機体、機動装甲(モバイル)。操縦方法は手動操縦と神経接続(ナーヴァス)の二種類。一般機は神経接続による操縦で、指揮官機のみが手動操縦を行う。神経接続は実際の手足のように扱えるのがメリットであるが、装甲や武器の重さが直接伝わってしまうためにバランスをとるのが難しく、慣熟までに多くの時間を要する。また、肉体以上に精神の疲労が蓄積しやすい。実戦では黒鋼刀(クサナギ)を主な武器とするが、演習では同等の重さの模造刀を使用する。動力は未知の敵である、鴉の名を関した、鴉機関(ジュノリアクター)。
余談ですが、機動装甲は大別名だと思われます。スサノオ11とオロチ7型という名称が作中に登場するのですが、この名前が何を指しているのかハッキリとはしません。おそらく、機動装甲の機体名がスサノオ11で、複式機甲砲台がオロチ7型ではないかと思われるのですが、断言はできないので紹介文には使用しませんでした。
複式機甲砲台(マルチプル)
操機科が運用する、複式機甲砲台(マルチプル)。六本の足に四本の腕、二門の巨大砲塔を搭載した重機動要塞。4本の腕は、2本の機銃腕(ガンアーム)と、2本の格闘腕(ストラグルアーム)からなる。練女ではメーカー推奨の5人乗りで運用するが、搭乗者の習熟度に合わせて1人から8人までの柔軟な運用が可能となる。複式機甲砲台は部隊運用を想定しており、春音が所属する部隊では1機の複式機甲砲台に7機の機動装甲という編成である。
鴉(カラス)
外惑星の開発にまで進出した人類に現れた天敵、鴉(カラス)。2237年、突如として現れた鴉によって外宇宙の開発計画は頓挫。後に大衝突(スーパーコライダー)と呼ばれる出来事によって、地球上の施設の4割を破壊された。2272年現在は大反攻(マッシヴアタック)によって優勢の状態となったが根絶には至っていない。漆黒の体表面と巨大な滑宙翼を持つことから鴉と呼称されるが、未だに機械とも生体とも判別がついていない。飛び方に地球の自転の影響を受けていることがわかり、対処法は確立されつつある模様。
イラスト
作品によくあっています。清潔感を持った絵柄に、併存する生々しさを感じる表情が本作にぴったりです。
派手さの抑えられたキャラデザもイメージから外れていません。
イラスト面で残念なことはメカのイラストが少ないことです。巨大ロボの立ち絵が1枚だけです。本作に出てくる2種類のロボットのうち、イラストになっていない複式機甲砲台は絵的に面白いと感じただけに、ないのが残念というか勿体無いです。
雑感
思わせぶりで実はない、本作を読み終えたときに浮かんだ一言です。まず、入りが問題です。ラストミッションという形で行き着く先を書いているのですが、作品を書く上で本当に必要だったのか疑問です。構想では続巻を予定していたようで、続巻が出ていればといったところでしょうが、たとえ続巻が書かれていたとしても必要が無かったと思います。ラストミッションを活かすためには、1巻の中でそこまでの形(構図)を見せないと思わせぶりなだけだし、形を見い出さないのであればそもそも必要なく、沙希の発言で匂わす程度でよかったはずです。
もう一点気になったのが、内面の描写を重視するあまり物語が進んでいないことです。へこんだ状態の描写が多く、結構読み疲れます。ただ、同時に読み応えもありますので、その部分への不満はありません。問題点は、そちらに傾いてしまったがために物語の流れが無くなってしまっていることです。流れがないために物語が進まず、流れがないためにラストミッションがブラフ(お荷物)になってしまっています。
読みやすい文章、面白い世界観や設定、戦うことが日常にある女の子たちの日常、このあたりは凄く良かったです。類似作品は少なく、新鮮な読み味があって、読み応えもありました(強いて類似作品を上げるならばトップをねらえとかランブルフィッシュとかかなぁ)。先程挙げた不満点を除けば良い作品だと思います。だからこそ、構成のマズさに不満が残っているのでしょう。ちなみに、あとがきには1巻でまとまっていると作者さんが書かれていますが、自分に言わせればまとまっていないので、読後感はちょっと微妙でした。
作品データ
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◎
100
表紙と外部リンク
余談
雑感に含めようか迷った部分での感想を書いていきます。
本作は舞台設定だったり、登場キャラの配置を見るに、百合作品だったとしても違和感がないように思えます。しかし、本作には百合成分は存在していません。憧れと恋愛関係の好きは別の感情だと思っていますので、しっかりと区別して書かれていることが単純に良かったです。別に百合作品が苦手なわけでもないので、後々そうなったとしても問題はないのですけど、安易な属性付けをしないことに好感を覚えます。
本作は200年後の地球、日本の関東が舞台となっているSFテイストを含んだ作品です。しかしながら、本作には時代錯誤としか思えないものがいくつも出てきます。ものの例えとして野球や相撲が使われていたり、テレビだったりコンポだったり洗濯機だったりと、200年どころかもっと短い時間で無くなりそうなものが当たり前のように存在します。個人的にはノスタルジックな感覚が楽しめて悪くないとは思うのですけど、意図して残したのかどうかちょっと気になりました(多分意図的にだよね)。
あと、これは絶対に本文の方では書かないことですが、1回目に扱った作品との対比が凄いです。雑感の中で良かった点として書いていたことを本作は逆の意味でやっています。無論、こちらの表現方法のが好きな方もいるでしょうから、とやかくいうものではないと思うのですけどね。
最後にとてもしょうもない余談を少し。どうでもいいこだわりなんですけど、キャラ紹介やロボ紹介の絵はできるだけモノクロ(グレースケール)のイラストを使いたいと考えています。しかし、本作はカラーの方が使いやすいイラストが多かったので、どちらを使うかで最後まで迷いました。用意はしたものの結局使わなかったので、供養を兼ねてこっそりと貼り付けておきます。興味があれば感想記内の画像のどれかをクリックして、出てきたカメラロールの最後の方を見てください。
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