小説感想記3冊目
アグバンと呼ばれる不毛の大地。群雄が割拠し、残り少ない資源を奪い合っている時代。この世界には、その地に〈従隷兵騎(スレイヴ・ドリヴン)〉と呼ばれる巨大な機械人形を操る能力を持つ戦士――機士(ドライバ)――がいた。ワグバン東部で屈指の機士であるス=ガンは、領主の庇護を受けていないため、各地で優秀な機士を求める領主に追われていた。だが、その日砂漠でス=ガンを襲った相手は……。巨大人型メカが縦横無尽に暴れまわる、本格ヒロイック・ファンタジー!!【裏表紙より引用】
登場人物
ス=ガン
大陸(ワグバン)東部で屈指の機士(ドライバ)、ス=ガン。身長は2m以上、体格もがっしりとした大男。体躯に見合わず動きは機敏。体が大きいだけでなく、髪も眉も真っ白な外見であるため、一度見たものに強い印象を残す。数々の戦場を生き抜いてきたことで自信家な面を持つが、ぶっきらぼうでデリカシーがなく、交渉事が苦手と、精神面の甘さも併せ持つ。本人自信が認める唯一の弱点はカナヅチであること。大陸最強の兵器であるドリヴンを扱うには特別な才能が必要となり、数々の戦場を生き抜いてきたス=ガンのような歴戦の機士はどこの領主も欲する存在である。同時に手に入らないのであれば消してしまうことが得策と考えられており、常に追われる立場となっている。
セレイン
ドリヴン発掘を生業としたキャラバンの女性、セレイン。黒い髪に黒い瞳、感情表現に乏しい表情からは何を考えているのか読み取れない。表現に乏しい様から人形に例えられるが、頭の回転は早く、機転も利く。キャラバンの一員、ガリガに暴力を振るわれていたため、キャリバンからの逃走を計画する。その折、バレン=アンレン軍の追撃によって倒れていたス=ガンを保護し、渋々ながらも協力関係を築くことに成功する。メカニックとして優秀なだけでなく、トレール(車)の運転も得意とするため、移動中の運転も彼女が務める。
タッカ
カンフラットの街に住む孤児、タッカ。灰色がかった金髪と青い瞳が印象的な子供。崩れかけの廃屋を住処に、十二人の孤児たちの食い扶持を稼ぐために盗賊行為をはたらく。盗みの腕は抜群で、気付かれることなくス=ガンの金を盗んでみせた。かつて、マレという女の子を高熱で死なせてしまう。そのときに助けてくれなかったことで街の人間を恨み、勝ち気な性格もあって大人たちに頼ることができずにいる。
ガリガ
キャラバンの嫌われ者、ガリガ。少しでも気に入らないことがあると大声を出し、すぐに暴れだす。短絡的で粗野な性格で、セレインを物としか考えておらず、髪を掴んでは殴る。カンフラットと敵対関係にあるバレン=アンレンの領主とつながりがあり、機士の才能は無いはずであるがなぜか機士となる。体格はス=ガン以上。膂力も体力も怪物級であり、筋肉の鎧は銃弾すらも弾いてしまう。機士となった後も逃亡したセレインに激しい執着を示し、行方を追い続ける。
ロボット要素
ブラスト
従隷兵騎(スレイヴ・ドリヴン)、通称ドリヴン。大きさは人間の倍は優にある。大陸最強の兵器と呼ばれるが、貴重品ではない。真に貴重なのはドリヴンの乗り手となれる機士で、才能を持った人間以外には動かすことができない。そのため、各地方の領主は機士集めに執心する。ドリヴンは機士の意志力が物をいい、意志力が上回れば制御孔(ピット)の外からでも操縦系を奪えてしまう。
(画像のドリヴンは)ブラスト。バレン=アンレンの領主、オブライエンの専用機として組み上げられたばかり。前後に長い顔が特徴的。特別な装備は見当たらないが基本性能がとても高く、特に追従性に優れる。稼働のために必要な意志力の消耗も抑えられており、基本に忠実な機体といえる。同型の機体がもう1機存在する。
ベンデル
バレン=アンレンのドリヴン、ベンデル。ずんぐりとした胴体に顔は不釣り合いなほど小さく、脚部は太く短い。長めの腕の指先は鏨のように鋭く、素手で鋼鉄をも引き裂いてしまう。装甲は極めて厚く、至近距離からの銃撃でも装甲がわずかにへこむ程度でしかなく、さらに背部から空気を吹き出して滑走するため、意外なほどに素早い。才能を持ち合わせていないはずのガリガが機士を務める。
また、これらのドリヴンの他に飛翔機(ダイヴ)と呼ばれるタイプも存在する。ドリヴンを扱う才能だけでなく、飛翔するための才能も必要なため、飛翔機はより価値が高い。
イラスト
本作のイラストは剛と柔にわかれています。ガッチリしたキャライラストもあるものの、キャライラストは主に柔です。
表紙や口絵、またメカのイラストは剛です。メカのイラストの質はとても高いのですが、如何せん少ないです。紹介で使った分で全てです。紹介した他にも数多くのメカが出てくる作品なので、ラフ画でも十分過ぎたので欲しかったところです。
タイトルや表紙からはガチガチなイメージを受ける本作ですが、実際のところはライト寄りな作品なので、コミカルなイラストの方がよく合っていて愛着を感じます。逆に、表紙や口絵は厳かで雰囲気に合っておらず、とても綺麗なイラストだけに勿体無い印象です。
雑感
スロースターターな作品。出だしは盛り上がりに欠け、ページを繰るに連れてエンジンが掛かります。タイトルはどこか重々しさを感じ、表紙及び口絵からは容易には手を出しづらい静謐さが漂っています。実際のところはライト寄りな作品ですし、盛り上がる部分もあるだけに、序盤のつかみの弱さが気になります。
文章は婉曲な表現が多く、理解をするのに時間を要します。勢いで読むことが多い自分にしては、休憩をこまめに挟みながらの読み進めとなりました。強調表現も多く、文章のリズム感がよくなかったのも一因かと思います。
ここまでは印象レベルの話なので、各人各様だと思います。しかし、本作の恋愛要素については印象どうこうの話ではないです。少なくとも、自分には到底理解できる代物ではないです。とあるキャラの女の子スイッチが入るタイミングはよくわからないし、女も男も簡単に惚れすぎだし、好きになる過程の気持ちが尽く書かれていませんので感情移入も全く出来ません。0と100の目盛りしか存在しない好き好きパラメーターでやきもきできるほど自分は上級者ではありません。
明確な不満点はありましたが、設定と物語のまとまりは良かったです。後半は盛り上がるのと、もやもやを残さない作りなので、読後感は非常にスッキリとしています。2段組の300ページなので文庫1冊よりはちょっと重めですが、世界観の規模と文章量もピッタリでした。パンチには欠けるけど、1巻完結なので手を出しやすい作品です。
作品データ
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