蜃気楼帝国

小説感想記2冊目

見渡すかぎり、緑色の砂が広がる世界、砂の世界(ハピ・アス)。巨大な飛行石が嵐となって吹き荒れ、巨獣ヴァオがうろつく世界に、時を同じくして二人の若者が現われた。砂嵐の彼方から歩いてきたのは、アッシュ。碧眼のアッシュ。名前以外のいっさいの記憶を失った少年。砂漠を支配する帝国(グラ)には、第3皇子リオン。ななつ星のリオン。聖騎士の黄金の十字を、片方の瞳に刻んだ皇子。秘められた力を持つ二人の若者によって、いまハピ・アスに、最後のそして最大のドラマの幕が切って落とされた。構想10年。最高のファンタジー、 ここに開幕!【1巻そでより引用】

登場人物

アッシュ


記憶喪失の少年、アッシュ。砂漠を彷徨い、巨獣ヴァオに食べられたところをルー族のバギに助けられる。記憶こそ失くしたが、明るく人懐っこい性格をしている。反面、敵意や殺意に敏感で、ひとたびスイッチが入ると戦闘能力を増大させ、手がつけられなくなる。少年ながら戦闘能力はとても高く、ヴァオ狩りで鍛えられたバギや、最強の拳法を自称するタオ拳の使い手、デュウを驚かせる。主な得物は剣であるが、両手より火の玉を飛ばす術(マギ)、カカトゥ・メスクを使える。術は普通の人間には宿らず、特殊な人間にしか使えない。アッシュは外見も特徴的で、金髪と碧眼は砂の世界ではとても珍しい。また、人が死ぬ一瞬に見せる悟りの目、死生眼と呼ばれるものを瞳に表す。

フラウム


天幕族の少女、フラウム。砂羊の毛を加工して作られた色彩豊かな布を売りながら、同族の老人タータと暮らす。村祭のために帝国法で守られたヴァオのキバに手を出し、そのことでタータを亡くしてしまう。天涯孤独の身となり、場に居合わせたアッシュとバギと共に旅に出る。旅の途中で、くちづけを交わした男女は永遠に結ばれる、という伝説があるイズの泉で、アッシュと口づけを交わし、両想いの恋へと発展する。歌うことが好きな少女で、天幕族に伝わる流星譚を好んで歌う。砂の世界では邪教とされる太陽教団の首飾りを持ち、太陽神ラミを信仰する。

リオン


帝国の第三皇子、リオン。赤い瞳に赤い髪が特徴の見目麗しい美青年。その姿からは想像できないが、戦場ではななつ星のリオンとして恐れられ、戦場を駆ける様から赤い疾風と(赤い迅風とも)渾名される。王宮内の謀略で幼い頃に母親を絞首刑で亡くし、母親の死に影響されたことで騎士の道を歩む。砂の世界で高名を轟かすディアナンの修行場に赴き、類稀なる才能を発揮し、聖なる七日(アブラクサス)と呼ばれる荒行をくぐり抜け、ディアナンの聖騎士となる。右目には聖騎士の証として黄金の十字章が浮かぶ。ディアナンの騎士は1年に十数名、聖騎士はもっと少なく2、3年に一人。聖騎士は帝国内で2人、砂の世界全体でも数十人しかいない。リオンの剣は剛剣でありながら自在剣、無念無想と称されるほどに凄まじいが、更にその下にはななつ星と呼ばれる凄腕の異能集団を抱えている。

ゴザ


ななつ星の一人、猿面のゴザ。元は盗賊の頭。あまりの戦上手から、各地で傭兵家業をしていた。リオンとはメルウ戦争で敵味方に別れ戦い、犠牲が増える前に降伏を選択する。自らの首を差し出すつもりでの降伏であったが、配下を含めてななつ星にそのまま組み込まれた。無謀な死を嫌い、生きることを勝利と考えた兵略を行うことから、兵を引く天才とリオンは評する。ななつ星の七人は異能を持ち合わせながらも直接戦闘にも優れるが、ゴザは直接戦闘を得意とはしておらず、情報を集める密偵を主とする。また、ゴザの旗艦、砂神(ゴール)は帝国一の速さであるため、リオンもよく同乗し、共に行動する機会が多い。

ロボット要素

リオンの甲冑


ななつ星、リオンの甲冑。甲冑とは、五感など神経の全てを搭乗者と同化し、能力を何倍にもする強力な兵器。単純に能力を上げるだけでなく、浮き上がるほどに強い蒸気を腰から噴射するため、移動速度は速く、ジャンプ力も高くなる。主な武器は剣。帝国で使われる甲冑は訓練すれば誰にでも使えるが、訓練は必要。素人が乗り込むと、肉体だけでなく精神をもずたずたにしてしまう。また、甲冑は強力な兵器であるが、装甲の隙間は薄く、使い方を間違えれば生身の人間にも容易くやられてしまう。

リオンの甲冑は大量生産品ではなく、錬金師による特注品。性能も高いが、同化の際に伴う痛みや苦痛も通常の比ではない。帝国で使われる甲冑は黒であるが、リオン(とななつ星)の甲冑は赤色で、胸には十字七星があしらわれているのが特徴。

ルー族の鎧


ルー族の鎧(スーツ)。ルー族の銛師がヴァオを狩るための装備であり、戦闘用の甲冑とは違い直接的な戦闘力は低い。鎧の特徴は背中に付けられた第3の腕(フーム)と、念を雷、衝撃雷流に変える力。第3の腕で銛を刺し、衝撃雷流で相手を動けなくする(仕留める)という戦法を取る。戦闘能力が低いため、帝国の甲冑より技術力は低いと思われがちだが、実際は鎧の方がはるかに複雑な作りをしており、リオンの甲冑にも技術の一部が取り入れられていると噂される。また、鎧は誰にでも使えるわけでなく、ルー族の中でも選ばれた者にしか扱えない。

浮揚艇


浮揚艇。船内に収められた飛行石の力で浮く。飛行石の特性として、水を含めば含むほど沈むため、船内の水量を調節することで高度調整を行う。飛行石は便利な半面、欠点として、被弾して船内の水が抜けると墜ちるのではなく、浮いてしまい制御不能となる。飛行石を用いた艦種としては、哨戒艇、戦闘艦、突撃艦など用途ごと多岐にわたる。哨戒艇は名前の通り偵察や監視に用いられる艇。小型で戦闘艇より速度が出るため、戦時には電撃戦に用いられることもある。哨戒艇には通常1体の甲冑が配備され、直接武装の火筒は大体1門か2門装備される。戦闘艦は装甲を厚く、甲冑の積載量を増やし、砲門も増やした艦種。突撃艦は船内タンクを破壊するための衝角を装備した特殊艦。

イラスト


1巻、2巻には描きこまれて綺麗なイラストが多く掲載されています。イラストへの不満は全く無いだけに、巻を重ねる毎に枚数が減ってしまうのが残念。


人物画。イラスト量は減りますが、主要人物のバストアップはあるのでイメージソースには困りません。見てもらって分かる通り濃ゆい面子が揃っています。


甲冑、鎧の画。めっちゃカッコいい。残念なことは枚数が少ないことだけです。


キャライラストは少ないけど、その代りに地図や設定画が充実しています。各巻の巻末には、イラストを多く使った10pぐらいの世界観、設定の紹介コーナがあります。

雑感

良質、濃厚、芳醇なファンタジー作品。読み進めながら終始、面白いなぁと独りごちてました。

本作はキャラ配置が絶妙です。記憶喪失の少年アッシュと帝国の皇子リオン、この二人を主役に配置することで、綺麗な対比が生まれています。支配階級と従属階級、帝国側と反帝国側、それぞれの立場から見える光と闇が書かれています。

そして、二人の周りに集まる人物、二人の障害となる人物、それぞれ違います。本作は全5巻ながら登場人物がかなり多く、殆どの人物はそれぞれ思惑を持っています。そして、相応の見せ場があります。設定も凝っていて、内容も凝っていて、それでいて必要以上の重さを感じさせない。いろいろと凝っているけど、一番凝っているのは構成の部分だと思います。

とても優れた作品だけに気になる点もいくつかあります。1つ目は擬音による表現。特に序盤の巻で顕著です。説明を擬音で済ましている部分がかなり目立ちます。3巻過ぎた辺りで慣れたのか気にならなくなりましたけど、序盤は引っかかりを感じることでしょう。

2つ目、技名がダサい。意図的でしょうけど、ダサいものはダサいです。あかほりさんか広井さんの作品か認識(記憶)が曖昧だけど、外しているネーミングが多いので作風なのでしょうね。本作は硬派な作品です。ふざけてると感じる部分なんて擬音と技名ぐらいなので、お洒落に寄せた方が作品には合っていたと思います。

そして、最後が一番大きな問題点です。先程あげた問題点は本作の面白さの前では些細な問題でしかありません。それぐらい面白い作品ですが、最終巻である5巻だけは多くの疑問に首を傾げながら読むこととなりました。話の展開やキャラの立ち位置の変化も急だと思いましたが、それ以上に設定の変更が随所になされ、これまでの過程がいくつか無いものにされていました。設定の変更を行うこと自体は巻を重ねていけば仕方のないことです。問題点は積み重ねた部分までもが無くなったと感じる変化だったことで、とあるキャラに対する憐れみを感じずにはいられませんでした。

問題点の解説が長くなってしまい作品に対して申し訳ない気持ちになります。不満は確かにあるのだけど、それ以上に面白い。読後に最初に来る感想は不満ではなく、面白い作品を読めた充実感。だからこそ語りたい。だからこそ、細かいことでも書きたい。そんな気持ちにさせる作品でした。

そして、最後に書き忘れていることに気付きました。本作は未完です。未完であることが一番の問題であることは言わずもがなって感じなので、忘れてました。一応、第1部完、という終わり方なので区切りは良いです。ただし、伏線も本線も大量に残っている状態なので、もやもやするのが嫌な人は絶対読んではいけません。もやもやさせてしまうだけの力がある作品ですから気をつけてください。

作品データ

蜃気楼帝国
広井王子
木城ゆきと
角川書店 角川スニーカー文庫 1991/3 ~ 全5巻
ジャイブ 2004/2 ~ 全3巻
ジャイブ版(菊判サイズ)のイラストは末弥純さん
ジャイブ版はスニーカー文庫版5巻が丸々未収録
スニーカー文庫版イラスト枚数 1巻31枚 2巻30枚 3巻15枚 4巻10枚 5巻13枚(設定画やキャラ紹介など諸々を含めた枚数)
下の判定表、巨大の項目×について。文章中にサイズに関する描写が一切なく、人と対比できるイラストもないため、作中の雰囲気でつけました。漫画版だとかなり大きいのですけども。

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表紙と外部リンク


蜃気楼帝国 1 碧眼のアッシュ
1991年2月発売
蜃気楼帝国 2 闇の神殿
1991年6月発売
蜃気楼帝国 3 砂の鎮魂歌
1991年8月発売
蜃気楼帝国 4 太陽の伝説
1992年5月発売
蜃気楼帝国 5 神々の黄昏
1993年3月発売

余談(ネタバレ注意)

以下余談です。余談と呼ぶには長すぎるので、つまりは本題です。いろいろともやもやとしているので既読者で暇な方はお付き合いください。未読の方やこれから読む予定の方は絶対に読まないでください。ネタバレだとかそんなの一切気にしません。

漫画版

まず漫画版について。実は原作を読む前に漫画版に手を出してました(2、3年前かな?)。原作小説の内容と、漫画版のおぼろげな記憶が合わずにピンと来ないので、改めて確認したところ、時間軸が原作より前です。原作では2年前の話として出ていたメルウ戦争がメインになっています。アッシュは勿論のこと、アッシュ側として活躍したキャラの多くも未登場。代わりにメルウの同盟国、バザン陣営のオリキャラが多く登場し、帝国側の既知のキャラとぶつかります。

漫画版はこれはこれで面白いですが、原作を読み終えたあとに改めて読むと面食らいます。まず、ノリがライトで、ななつ星の面々が結構明るい。また、原作の前日譚でありながら、設定や物語の食い違いもある。代表的な点ではゴザが若すぎること、アモンが既にハスキル一族の代表格になっていたりといった部分です。ちなみに、おまけ的な感じで原作には無かったバギとリオンの会話(遭遇)があります。

ジャイブ版

ジャイブ版の小説も買いました。4巻までと5巻で設定が食い違っている話は既にしましたね。新装版であるジャイブ版ではどのようになっているのか、気になっていた部分を確認していきます。

1つ目、サラ(リオンの母親)の死が反逆罪による絞首刑から毒殺に変更されたこと及び、その過程でのパロンのツバ吐き。この変更は、皇帝の「毒殺(計画)」をサラが「毒殺」されたと置き換えてしまったことでの勘違いと推測しています。

2つ目、モーリが憑依を使っていないことにされる。これは言葉遊びに近いです。4巻まで(4巻で初使用)は「憑依」ですが、5巻は「同化」にされています。術の説明はほぼ同じですが、5巻で使われたのは同化。ただし、他のななつ星メンバーが原因がわからず困惑していることが不思議なのと、同化という言葉は甲冑との同化で既に使われていることからも、同じ単語を使うことに違和感があります(同化は現象であって術ではないはず)。

3つ目、「声波」の読みがウェーブからボイスに。ただのルビの振り間違いじゃないかな。

4つ目、死生眼の設定が5巻に出てこない(4巻も無い)。アッシュとリオンの対峙において死生眼というワードが在ると無いでは大きく違ったと感じていましたが、調べても5巻には一度も死生眼というワードが出てきません。ただの邪推なのか忘れていたのか気になります。

角川版で気になったこれらの設定がどうなっているのか確認したところ、全て角川版と同じでした。5巻に寄せる修正はされていませんでした。

これら確認の裏付けは実は漫画版でもできます。漫画版には広井さんのあとがきコラムが載っており、その中で4巻以降の大幅な書き直しを明言しています。書き直しにこれら要素が含まれていたのか確認する術が存在しないので断言はできないものの、可能性は高いと思われます(死生眼は邪推の可能性が高いけど)。

ジャイブ版とスニーカー文庫版の違い

1つ目。1巻に1話分(約30ページ)の書き下ろしがあります。スニーカー文庫版では過去の出来事としてしか語られなかったメルウ戦争のエピソードが新たに追加されています。

2つ目。スニーカー版ではココの恋人を殺したのはゴザとしていたのが変更され、ななつ星への恨みという形になっています。感想記を作るために読み返していて気づいたのだけど、元のままだと時系列がかなりややこしいです。メルウ戦争ではリオンとゴザは敵対していましたよね。で、投降後は砂神を作るためにひと月の時間をもらっています。戦争がどれだけの期間行われていたのかわかりませんが、相当な余裕が無いとゴザは関われません。細かい変更だけど、確認してみて、なるほどと思いました。

3つ目。これが一番大きい違いです。修正ではなく変更ですね。テリオが少年から少女になっています。各巻冒頭に簡易キャラ紹介があり、最初に見たときはただの誤植だと思いましたが、念のために中身を確認すると、中の文章も少女に変更されています。ちなみに漫画版も実は少女になっています。ミリオも少女になっていたら紅三点。モーリ危うし。

考察 正体

ここまでは実に余談でしたが、ここからは作品の謎について考えていきます。完結することはないだろうし、時が経ちすぎて語れる人もいないだろうし、読み終えた直後でホットな自分が好き勝手に書いていきます。

まずは各キャラの正体について考えます。

アッシュ。太陽王の生まれ変わりではなく、ベルリーブが作った戦闘用アンドロイド。グラに強烈な敵愾心を持つのは、ベルリーブをグラによって滅ぼされた(壊滅的な被害を受けた)影響から。アッシュに関しては作中で夢という形で語られていたので、夢が間違っていなければこれですよね。

アッシュはリオンによって葬られましたが、十中八九復活します。かつても存在したということは、死ぬたびに新しく造られるはずです。記憶の継承は少し曖昧で、すべてを覚えているのであればもっと説明できた部分もあったはずです。記憶や夢の部分に関して曖昧過ぎることもそうですが、太陽教団が怪しいです。

アッシュが王である可能性について。これは無いです。アッシュの失敗作が砂鬼ということからも相当数作っています。王を作るのであればもっと絞って作るのが道理だし、何度も蘇ることからも、王ではなく守護者の役目のほうが近いはずです。

フラウム。太陽神を信仰しているのと、帝国への強烈な恐怖心を見るに太陽教団の信徒であることは間違いないです。しかし、封印の塔の太陽教団と関わりがあるかは疑問です。演技でなければ、ひとつ剣で始まる五行を知らなかったのはおかしいので、天幕族が信仰する太陽教団は別の宗派の可能性が高いです。それに、封印の塔の太陽教団は広めるにはカルトすぎます。

そして、天幕族について。突飛な発想だけどベルリーブの技術者たちの末裔と予想しています。アッシュとフラウムが惹かれ合う部分には、作る者と作られた者の関係もあるんじゃないかと。なんにしても天幕族もかなり怪しいです。

リオン。帝国の嫡子(グラの血筋)であると同時に、サラ(母親)の言葉を信じるならばベルリーブの統治者の末裔。カーヒンを集めているのもベルリーブの血の影響と考えると納得しやすいですが、単純に能力者を好んでいるだけの可能性も当然あります。ベルリーブとグラの血を引くことでアッシュとの関係が複雑になっています。グラの血の影響が強いようで、激しい敵意を両者抱いていますが、本来であればアッシュが守るべき存在のはずです。

ななつ星。たしかであれば全員カーヒンの血が流れています。ななつ星について考える場合、まず、カーヒンがなんなのかについて考える必要性があります。

カーヒンを考える前にそもそもの疑問として、カーヒンは一般的なのかが気になるところです。隷属して生きることを定められた、という文章からも一定数いて、一般的だと思われるのですが、アッシュの見た夢にはななつ星の面々がアッシュ同様に造られていることが示唆されています。その場合、カーヒンの血=アンドロイドとなり、カーヒンの人間が死ぬたびにアッシュのように溶け出していたら、違和感バリバリですよね。

元となったカーヒンがいて、その人物の子孫が現在大陸中に存在するカーヒンで、ななつ星やアッシュは能力的な都合でカーヒンの血が流れているだけ、ということでしょうか。あ、そもそもアッシュがカーヒンとは名言されていませんね。

ただし、アッシュとななつ星のつながりは、ゴザやモーリの反応を見ても明らかです。アッシュは王ではないと思いますけど、最低でも上位者に位置する立場のような気がします。また、アッシュの不良品が砂鬼。そして、ジェドがカーヒンであることからも、砂鬼もカーヒンである可能性が高いです。つまり、アッシュもカーヒンなはず。もしくは失敗作がカーヒンと呼ばれて外に捨てられているってことかな。

ベルリーブの謎。ベルリーブはヴァオの活動を止めたがっていますが、ベルリーブにはヴァオとオリハルが存在したと描写されています。もともと存在していたヴァオを止める必要がわからないです。

不老長寿の薬、ゴドー。作中の描写を見るに禁止薬物とかのあれですよね。幻覚作用もあったので、太陽教団による太陽王のでっちあげの線が結構強いと思っています。ここまで長々と書いてきましたが、アッシュの夢に頼った推測なので、大前提が容易に崩れる姿が目に浮かびます。

太陽教団。3巻のヘイマスとル・グラの会話で封印の塔の鍵を持っているのは闇商人と書かれています。つまり、太陽教団は闇商人そのものということですね。この考えがあっているのであれば、塔にいる太陽教団はなりすましの可能性も出てくるし、太陽教団が闇商人そのものだとすれば怪しさが倍増でよね。

考察 流星譚

ななつ星 流れ 魔法はななつ
ななつ星 祈り 魔物はななつ
ななつ星 堕ち 魔力はななつ
ななつ星 満ち 魔戦はななつ
ななつ星 獲り 魔道はななつ
ななつ星 描き 魔印はななつ
ななつ星 輝き ななつ闇はらえ
ひとつ剣 輝き ななつ闇はらい
ひとつ剣 貴く 魔王を断つ
ひとつ剣 駆け 竜王を集め
ひとつ剣 暴れ 獣王が狂う
ひとつ剣 醒め ひとり王が降臨る

詩の意味は作中で解説されなかったので無理やり推測します。

ななつ星から始まる七行はななつ星を集める過程。具体的な行動は詩われていないので、ひとつ剣へ至るただの過程と考えます。

「ひとつ剣 輝き ななつ闇はらい」闇がなにかわからない。前詩の「闇はらえ」から続いての「闇はらい」なのかな。詩の連続性は証明されているけど、闇がわからない。

「ひとつ剣 貴く 魔王を断つ」魔王はパルペラを指しています。4巻1章のタイトルが「魔王の吐息」で、パルペラさんが大活躍している章です。ミスリードの可能性もありますが、現状ではこれ以外の選択肢がありません。

「ひとつ剣 駆け 竜王を集め」本編の中で竜という単語が使われているのは3つ。1つ目は闇商人の結社、黒竜会(ルナ・イム)。2つ目は封印の塔、第4層の赤竜。3つ目、シャイールの持つ楽器、竜琴。集めという詩から考えて2つ目の赤竜は除外されます。1つ目の場合、闇商人を集めたのはバギですが、バギも集めたアッシュという考えができます。3つ目の場合はシャイールを集めただけになりますね。ただし、このシャイールはかなり重要な意味を持っています。作中であれだけ疑問視された流星譚の全詩を把握していたのはシャイールだけです。

すいません、ここ追記です。ザッパ・グラの軍は黒竜軍と呼ばれているそうです。なので4つ目の選択肢になりえますね(可能性は低いと思うけど)。

「ひとつ剣 暴れ 獣王が狂う」獣の名をグラと呼ぶ、とパルペラが発言していますので、獣=グラ、獣の王=リオンとなります。剣(アッシュ)が暴れ獣王が狂う、と考えると、5巻の最後に当てはまります。しかし、もう1人獣王に当てはまる人物がいます。ヤパで独立したザッパ・グラです。彼もまたグラの王ですよね。

「ひとつ剣 醒め ひとり王が降臨る」太陽教団の考えではアッシュが剣を持ち帰った段階でここまで進んでいますよね。それ以外にも、アッシュとリオンの戦闘で記憶が戻ったことを「醒め ひとり王が降臨る」と受け取ることもできます。

ここまでいろいろと考えてきましたが、そもそもの話として、最初から途中まではリオンのことを詩っています。それが途中でアッシュのことに変わるのはおかしいと思います。例えばななつ星の七行はリオン、ひとつ剣の五行はアッシュならわかりますけど、ひとつ剣の魔王はリオンが消化しています。

リオンで無い場合に考えられるのは、そもそも詩の内容は全く関係ない場合。もしくは、まだ詩の頭にも到達していない場合です。リオンでない可能性としては、大前提が間違っている場合だけじゃないでしょうか。

そして、もう一つ怪しいと思っているのが太陽剣です。そもそも太陽剣は出自が怪しい。イムナイムから遠く離れた封印の塔に封印されていたのに、太陽剣を発動させる呪文はル・グラが把握しており、危険性も承知の上で放置していました。封印の塔の鍵を闇商人が持っていたことで手を出せなかったと同時に、太陽剣の危険性よりも月光剣の危険性の方を危惧した、と判断できます。月光剣の重要性を考えるならば「醒め ひとり王が降臨る」という詩は、太陽剣で神体を破壊し、月光剣を手に入れたときこそ当てはまるのではないでしょうか。

そして、最後にちゃぶ台返しをしますが、尾歌(後歌)の七行が多分ありますよ。ひとり王が降臨た段階で終わってしまっていますので「ひとり王」から始まる七行が存在しないとオチが見えてきません。無論、流星譚は全く関係ないと考えることも出来ますけど、けどって感じですね。

考察 その後

読後最も気になったのは拳法家デュウとヤパの王女マルチネの二人。太陽教団に何らかの形で関わっているマルチネの存在はとても大きいです。協力的な立場であれば太陽教団を激しく憎むデュウとは敵対する立場になるし、囚われている立場であれば救出対象となります。5巻では完全に放置されていましたが、どのように料理したとしても必ず美味しいネタになるので、完全無視はありえませんよね。

そして、当然ながら本題はアッシュとリオンの決着です。ここまでの考察ではリオンを王として捉えましたが、果たしてそのとおりになるものでしょうか。作品のタイトルが蜃気楼帝国です。リオンが作り上げる理想国家が蜃気楼のように消えていくと捉えることも出来ます。どちらが勝者になるのか、どちらも勝者にならないのか、予想不可能なので妄想ifルートを考えましょう。

アッシュ 太陽教団の勝利

一番悪いパターンです。宗教で政治を行うことはヤパで描かれ、アッシュとベローニは直接関わっていることからもの危険性を十分承知しているはず。リオンを打倒するということは帝国を打倒することになるし、乱世の到来を告げることになります。そして、太陽教団は帝国だけでなく、すべての国家から嫌われていることからも、間違いなく最初に潰すべき存在となります。また、国家として運営するには人材が足りていません。政治を行える人材がベローニしかおらず、太陽教団の教導者が全面に出るとなると危険な匂いしかしません(太陽教団の仮面を捨てる可能性もあるかも)。

大前提として太陽教団はまともではないです。封印の塔に近づいたものを始末してきたのは事実のようだし、殉教を是とし、闇討ちも厭わないとか、まぁ邪教です。帝国も神聖暗黒教団と極めて近い関係にありましたが、リオンは政教分離を行おうとしています。果たしてアッシュにそこまでの頭脳があるのか、太陽教団に傾倒し始めているベローニに決断ができるのか、甚だ疑問です。

アッシュの取る道その2。もしアッシュが王朝を立てるのであれば選択肢は事実上一つです。途中で太陽教団を切り捨てることです。実例だと紅巾党を切り捨てた朱元璋のやり方がイメージしやすいですね。敵国の命運が尽きたと見るや母胎の宗教団体を徹底的に打ちのめし、その後禁教令を出して消滅させる。ここまで行えばベローニの下に人材を集めることが出来ます。バギと行動をともにするハスキル一族を上手く使えば経済面はなんとかなります。国防もバギを中心として組めば小国には負けないでしょう。

アッシュの取る道その3。リオン打倒後出奔する。横では戦乱の世が繰り広げられるなか、アッシュはフラウムとキャッキャウフフしていれば幸せなんじゃないですか。最悪のエンディングだけど一つの道ですね。

リオン ななつ星の勝利

リオンの危険性は理想国家を作り上げようとしている部分です。理想国家は往々にして一つ歯車が噛み合わなくなると一気に崩壊へと進みます。正に蜃気楼の帝国と化すわけです。理想国家はあくまで目指すものとして現実的な国政を行うのであれば、プリナイムのように良い国となると思います。

アッシュとリオン

何故アッシュルートが長く、リオンルートが短いのかというと、リオンがかわいそうな役柄としか思えないからです。5巻の書き方を見ているとななつ星のいくつかは離反しますよね。全幅の信頼を寄せていたのに裏切られる。匂わせたものがそのまま結論に結びつくのであればリオンは負ける側です。

絞首刑で母を亡くし、厳しい修行で得た剣技はアッシュに通じず、全幅の信頼を寄せたななつ星はアッシュに靡き、誠実な国家を作ろうとして、そして死ぬ。方やアッシュはフラウムを追いかけていただけで、主体性は何も持っていません。それに負けるリオンとはなんだったのか。

リオンの救いは、ななつ星の幾つかは最期を共にしてくれることでしょう。モサイは絶対だし、ジェドもそうでしょう。影供のテリオとミリオもリオンを先に死なせる真似はしないでしょうから、盾となるでしょう。彼らの存在が救いと感じられればよいのですけど。

締め

いやぁ、長々と書きましたね。この作品は語れてしまいます。憶測の部分を語りすぎたので、その部分は結構(殆ど)間違っているはずだし、皆さんはどう捉えていたのかが気になるところです。ここまで辿り着いた人でも最近読んだ人は少ないと思うのです。なので、まずは読み返しましょう。今読んでも多分楽しめますよ。長々と長過ぎる文章にお付き合いいただきありがとうございました。

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