小説感想記16冊目
西暦2292年、地球。科学技術の進歩により、すべての生活はコンピューターにより統制され、世界統一政府“ユニファ”によって平和を約束された理想都市を、突然“予言”が襲った。「破壊が始まる。それは天空から落ちてくる……」最大の敵イバリューダーの地球侵攻が始まり、宇宙からの謎の信号により具現化された勇者〈オーガン〉は、防衛隊E.D.Fとともに立ち上がった! そして17歳の少年トモルは、熱き血をたぎらせて、オーガンと宿命的な出会いを果たすが…… 壮大な宇宙空間に展開する、愛と正義のSFバトル・アクション、OVA原作第1弾! 【1巻そでより引用】
登場人物
真道トモル
世界統一政府ユニファによってデザインされた新都市、CITY-NO.5に住む青年、真道(シンドウ)トモル。17歳。20世紀に憧れ、特注のボマージャケットを羽織る。20世紀の中でも特に第一次世界大戦と第二次世界大戦に象徴される世界に惹かれ、平和と将来が約束された自身の状況に不満を抱く。義務教育の修了を半年後に控え、頭も良いため、最大手の商社に勤める兄から誘われるも、返事を遅らせている。その煮え切らない態度から、就職先を保証するチケットを入手するために勤しむ友人からは妬まれる。睡眠時にはプログラムした夢を見る機械、P・A・S・F・U(パスフー)を好んで使い、自らプログラムした中世を舞台にした夢を見るが、夢の中でプログラムにないはずのオーガンと接触を果たし、オーガンに戦うよう促さられる。ただの夢だと考えていたが、現実世界でも未知の敵、イバリューダーがCITY-NO.5に現れ、トモルの前にも夢と同じようにオーガンが現れる。危機に瀕し、戦う力を求めたトモルにオーガンが応えると融合(リンク)を果たし、オーガンのパイロットとなる。オーガンと融合したことで、オーガンの記憶を受け継ぎ、イバリューダーに関する知識だけでなく、殺戮と破壊の記憶やオーガンの持つ戦争本能に苦しむことになる。トモルには身体的に特別な部分は見当たらないが、オーガンと同じ生命光(ライフフォトン)を何故か持つ。
余談。リンクのルビは1巻では融合、2巻以降は合体の漢字に振られているので、合体のほうが正しいと思われます。
神先未知
天才少女、神先未知(カンザキ ミチ)。16歳。髪は栗色のロングストレート。眼鏡はだて。弱冠16歳にして、E・D・F(エディフィ)情報局第3課、兵器・兵装研究開発部門のチーフを務め、プロフェッサー神先の名で呼ばれる。順調にキャリアを重ねても50過ぎにならなければ就けない役職であるが、E・D・Fが保有する中で最も優秀な有機コンピューター、アイザックO1/2(オーハーフ)がオーガンの再現をするためのパートナーとして未知を選ぶ。父親は超人類生産計画(コンプリヘントプラン)で遺伝子操作を受け、明晰な頭脳と、優れた肉体を持つことが約束されて生まれ、娘の未知も父親の影響を強く顕している。頭脳に裏打ちされた理知的な性格であるが、感情的な貌も併せ持っている。トモルがP・A・S・F・Uで見る夢のヒロインのモデルに無断でされていたり、通勤のバスで何度かすれ違っているはずだが、認識や好意はトモルの一方的なものであった。トモルがオーガンとリンクしたあとは、トモルの脳に焼き付いたオーガンの記憶を探るなかで関係を持つが、恋愛経験がないため好意を寄せられていることにも気付かず傷つけてしまう。
美剣陽子
E・D・Fバードマン第2中隊、レッドチーム隊長、美剣陽子(ミツルギ ヨウコ)。他に納得できる仕事がなかったため、志願してバードマン中隊に入隊。軍人が性に合っており、エクテアーマーのリンクマンとなり空を飛ぶのも好きなため、現在の職を天職だと考える。さばさばとした性格で口も悪いが、美しい容姿も相まって部下のウェッジとゴードンの受けは悪くない。強大な敵、イバリューダーには絶対的な性能差で苦しめられ、トモルに命を助けられたことがあり、オーガンの記憶に惑い苦しむトモルに恩返しとして、助言とお礼を贈り、戦士の道を示す。
久見・ジェファーソン
小さな予言者、久見(クミ)・ジェファーソン。9歳。年不相応の雰囲気を漂わせる。半世紀程前の第2の創世記と呼ばれる技術革新で生み出された超人の末裔と言われる。水晶球を通して見た予言(未来)は必中と噂され、イバリューダーの侵攻も正確に予言して見せる。
ロボット要素
オーガン
白銀の戦士、オーガン。サイズは2mを超える。背中に付いている翼状のパーツは推進器。顔面装甲(フェイスガード)の下には多数の感知機(センサー)があり、戦闘態勢になると顔面装甲を下ろす。内部に人が乗り込むようなスペースはないが、パイロットを必要とし、電子化して取り込むための電子化装置が胸部に取り付けられている。直接武装は白銀色の刃や、光針(ライトニードル)など。光針の射出機は一種類だけであるが、ビームの出力と性質を変えることで多様な使い方が可能。その他にも、体の中心にあるコイル状の重力制御装置は、重力レンズを瞬時に形成し、太陽エネルギーを収束して放つ。頭部には思念をエネルギーに変換して放つ、P.E.C.(ペクサー)キャノンを搭載する。P.E.C.キャノンの発射には精神の高揚を必要とするも、分子で構成されたものならば破壊できないものはない。
イバリューダーの中でも上位種である突撃隊長(デトネイター)に属し、前線で戦う戦士の中で最高の呼び名である勇者と称される、ずば抜けた戦闘能力を秘めた存在。次なる目標が地球に決まると自我に目覚め、地球を救うため、宇宙の癌ことイバリューダーの母艦、戦闘惑星ゾーマから逃走。地球を目前にした月まで辿り着くが、追手の戦闘艦と刺し違えて全ての機能を停止。その後、残ったエネルギーがオーバーロードし、エネルギー炉が誘爆したため、地球を見上げながら月面で最後を迎える。しかし、逃走しながら1年もの時間をかけて自らの生体情報(ライフデータ)を地球に送り、E・D・Fの万能工作機、ビルベルビントにより再現され、地球上で複製品(レプリカ)が作り出される。ただし、技術力の劣る地球では完全な復元は出来ず、性能面で原型(オリジナル)より劣る。復元後、真に味方かわからないため、念の為バッテリーの補充はしていなかったが、勝手に補充し、危機に瀕したトモルの元へと向かう。E・D・Fでは当初、肩幅の広いもの(プラトン)のコードネームが付けられるも定着せず、彼としか呼ばれず、トモルの証言でオーガンという名が判明する。
ハリケーンMkIII
バードマンBタイプ、ハリケーンMkIII(マークスリー)。高度500mから超成層圏の防衛を受け持ち、飛行用の姿から、対地専用の人間型(マンフォーム)へとチェンジすることで地上での活動も可能なエクテアーマー。武装はガンポッドなど。数あるエクテアーマーの中では高い機動性を誇るも、イバリューダーと比べると雲泥の差があり、火器も線香花火程度にしか思われない。ハリケーンMkIIIは最新型のバードマンとされるが、火力も強化された最新型の、スピットファイアMk1も既にテストされている。エクテアーマーにはバードマンタイプ以外にも、地上攻撃機のフリーマン、陸戦用のタンクマン、海上と海中用のドルフィンなど多数存在する。
エイド
破壊の使者、エイド。重攻撃隊員(デストロイヤー)に属し、大きさは4m程。大きさに反し機動性は抜群で、瞬時に音速を超え、方向の修正を直角に行う。武装面も充実しており、右手に内蔵された射出器からは赤い光の針を飛ばし、口内からは真っ赤なビームを放ち、体中から紫色のビームを放つ。エイドはオーガン追跡のために地球上に初めて現れたイバリューダー。近づく者は誰であれ殺し、形あるものは全て突き崩すために存在するとされるが、目的を実行するためのセンサー類も充実している。探査機のような機能も備わっており、戦闘用の無骨な指先から細い端子を出し、ビルベルビントの接続口から情報を抜き出す芸当を見せる。
ラング
オーガンの上官にあたる突撃隊総長(ヘッド・デトネイター)、ラング。武装は右手首に内蔵した長い刃とビーム攻撃だけとシンプルであるが、圧倒的な戦闘経験と豊富な知識で武装の少なさを感じさせない。また、核に匹敵する威力の爆弾でも影響を受けない防御力を誇る。オーガンとは数多くの戦場を共にし、幾度かの窮地を助けられた戦友でもあったが、破壊と殺戮以外に真理があるなどと狂気にとりつかれてイバリューダーを裏切ったことに爆発的な怒りを覚える。イバリューダーの体、ソリッド・アーマーは半永久的であるが、その中の本体は200年ほどの寿命しかなく、歴戦の勇士であるラングはその寿命の後半におり、多くのことを教えたオーガンが突撃隊総長を継ぐことに期待していた。
イラスト
本作は各巻ごとにイラストの担当が変わっています。1巻は大張さん、2巻は松原さんが加わり(上の画像は松原さんのもの)、3巻は総入れ替えで山根さんと服部さんといった布陣になっています。
そして、今回のキャラとメカの紹介は、久見とハリケーンMKIII以外は大張さんのイラストを使わせてもらっています。大張さんといえばケレン味がたっぷりなメカ絵の人と認識していましたが、キャラ絵もとても綺麗なことに驚きました。有り余る画力を普段から見せているので当然といえば当然なのですが、大張さんのキャラ絵を見たことがなかったので新鮮で、特に女性の凛とした表情が素敵でした。
本作にはモノクロのイラストだけでなく、カラーイラストも口絵として収録されています。複数の作家さんが担当され、どのイラストも質が高いです。
イラストの枚数自体も多いのですが、設定画も載っているので、いたれりつくせりです。作中の主要なキャラとメカはほぼ収録されていますのでイメージソースは十二分です。
雑感
毎度のことながらアニメは未見です。その他の情報も薄っぺらくあるだけでほぼ無いので本作だけの感想となります。
まず、立ち上がりがかなり重たい。100ページ前後まで物語よりも世界観の説明やトモルの内面を書いているので動きが少ないです。その後は物語と世界観(設定)がそこそこバランス良く描写されてますが、全体的には世界観寄りの作品です。
本作の発売が1991年ということで、もう30年近く前の作品となります。そして、本作の舞台は2292年の地球です。また、トモルの趣味である20世紀についての描写もあり、1991年から見た2292年のトモルを通して見る20世紀という、文字にするとよくわからないものが結構な文量で書かれています。また、20世紀から23世紀(未来)に至る過程での問題の諸々についても書かれており、その問題というのは今(2019年)にも見え隠れしている問題なので読み応えがあり、そうした細かい部分でのSF描写も丁寧に書かれています。
本作は全3巻で構成され、まとまりが良いです。全3巻なので短くはないけど、長くもない。先程書いたように細かい描写が丁寧で、ゆっくりと世界観を堪能できます。反面、物語の波は少なく、まとまりは良いけど作品としては直線的です。また、作者さんのあとがきにも書かれていますが、オーガンの見せ場は少なめだと感じました。戦闘場面も丁寧に描写されているけど、割とあっさり気味で緊迫感は弱めです。
本作を一言で表すならば丁寧です。本文だけでなく、本全体の作りが丁寧です。キャラ紹介やメカ紹介では一部を除いてほぼ全てのイラストが用意され、巻末には用語集まで付いていて、いたれりつくせりです。SF要素がかなりありながらも、全く読むのに困らず、アニメを見ていなくても全く困らないので、気軽に読める作品だと思います。
作品データ
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表紙と外部リンク
余談(ネタバレ注意)
余談を二つほど。大したネタバレではないですけど、まぁ、一応ということで。
エイドIIについて。本作の情報をネット上で探すとWikiも素晴らしい情報量でありますが、スパロボ参戦作品ということでスパロボWikiの情報もかなり豊富です。で、エイドIIの書き方が両者でちょっと違います。wikiではエイドの中にエイドIIが内蔵されていることが基本であるように書かれ、スパロボWikiでは対オーガン用に特例的にエイドIIを内蔵しているように書かれています。正確にはWikiの方でも注釈でスパロボWikiに記載されているようなことが書かれていますが、自分が読んだ感じでは注釈抜きのWikiが近いと思います。
エイドはウォーリアーズクラスを内蔵する特殊なデストロイヤークラスで、他のデストロイヤークラスは内蔵しないと考えれば特殊性の証明になるのではないでしょうか。
おそらく赤枠で囲った部分の記述で両Wikiの解釈が違っていると思われます。ちなみに本記事の本文でエイドIIについて触れなかったのはネタバレへの一応の配慮です。そして、もう一つの余談は陽子。
3巻のあとがきで、陽子はもっと野蛮な存在に設定しており、もっと動かしたかったという旨が書かれていますが、自分は陽子のキャラや役回りはかなり好きでした。出番の少なさ故の物足りなさはあるのだけど、オーガンの出番が少ないという部分にも共通し、絡み自体が少ないので仕方なかったかなと。さばさばしていて良かったし、カッコイイ系のイイ女って感じで、物語に華を添えることには成功していると思います。
はい、どうでもいい余談でした。お疲れさまです。
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