マテリアル・パズル ゼロクロイツ

漫画感想記17冊目

『俺がこれから見るのは伝説の時代――女神と大魔王の伝説が生まれた時代だ。そこには滅びゆく世界を救おうと闘った3人の物語があったんだ』ある日、平和なポッカ島に一艘の大型船が上陸する。その船に積まれていたのは、“鉄身の巨人”と呼ばれるロボットの右腕。見た事のない光景に不吉な予感を覚えるベルジ。ほどなく彼の予感は的中することとなる。ロボットの本体が、失われた右腕を求めて島に上陸し、無差別に攻撃を始めたのだ。村人達が悲鳴をあげて逃げ惑う中、ベルジはひとり立ち上がる。仲間を守るため、島を救うため……。【1巻冒頭と2巻掲載あらすじより引用】

登場人物

ベルジ・タスク


田舎の小島、ポッカ島に住む16歳の少年、ベルジ・タスク。悪魔の獣と恐れられるデスレオンを、獣を操るための寄生石を使わずに手懐ける、全人類の中でも一握りの才能の持ち主。獣と魂を通わせる才能はクロイツとの融合の才能に直結し、特別な訓練をせずにクロイツ、フェーダードライを発動、融合を行う。クロイツを動かすことは出来たが、基礎からクロイツを学ぶよう導かれ、マジェンガ魔法陣に入学。魔法陣の指導員たちからは天才、化物、怪物などと称される。普段はとても大らかで包容力のある性格をしているが、クロイツと融合時は好戦的かつ怜悧になる。融合できるクロイツは結びつきが強すぎるためフェーダードライのみ。

シュウガ・クロウ


ベルジの幼馴染兼好敵手、シュウガ・クロウ。ベルジが島を出る際に、請われる形で共に島を出る。シュウガもまた獣と魂を通わせる才能を持ち、ベルジ同様の高い評価を受ける。ベルジに対して強烈な対抗心を持ち、複数のクロイツとの融合が可能であるにも関わらず、ベルジのフェーダードライに固執する。

クリム・テイル


ベルジとシュウガの幼馴染、クリム・テイル。ベルジとシュウガのことを心配して共に島を出る。二人の保護者役。マジェンガ魔法陣入学試験に合格したことで、後にベルジやシュウガと同じく女神の三十士(さんじゅっし)の一人となる。ベルジとシュウガと同い年であり、誕生日はベルジの2日遅れ。

ミト・ジュエリア


大国マジェンガの女神と崇められる15歳の少女、ミト・ジュエリア。クロイツを初めて起動させ虹の一体、黄ノ卍龍(キノマンジリュウ)と刺し違えたセトを父親に、同じく虹の一体、緑ノ深龍(リョクノシンリュウ)と刺し違えたリトを兄に持つ。父と兄の能力を士魂の術により継承したことから、人知を超えた魔力を持つ。最強のクロイツ、フラメアインスの融合者であることから女神と呼ばれ、マジェンガ国に於いては王よりも強い権力を持つ。本当の名前はメルパトラ・アーロであり、ベルジにはメルパトラと呼ぶよう求めるなど少女らしい面を見せる。

ロボット要素

フェーダードライ


羽のクロイツ、フェーダードライ。ポッカ島に存在した魔王の骨(クジラの骨のような化石)がベルジの想いに呼応して発動、融合した姿。人類が見つけた4体目のクロイツにして、羽の魔法(マテリアル・パズル)、エンゼルフェザーを使う。エンゼルフェザーにより跳ぶ事が可能となり、機動力に優れるクロイツ。またエンゼルフェザーを身に纏い格闘戦を行う、ドレスという技を使う。ベルジとの繋がりが強いためベルジ以外との融合は事実上不可能。

クロイツの説明は作中で幾つかの形でされ「選ばれし者の魂を生贄に蘇る大地の力、魔導兵器」「大地の守り神デュデュマの作り出した戦士、星のたまごから蘇ったかつての最強の生物」などとあり、生物とも兵器ともどちらとも取れるようになっている。

フラメアインス


炎を操る最強のクロイツ、フラメアインス。主な技は高密度の炎を長大の剣状に固形化した、炎陣剣。爆炎の監獄に閉じ込めあらゆるものを破壊し焼き尽くし消滅させる、太陽陣など。他のクロイツを遥かに凌ぐ火力に優れたクロイツであるが、搭乗者が代々ジュエリア家の人間だったため、ジュエリアの血縁以外が融合するのは難しく、融合者のミトへの負担も大きい。使用する魔法は炎の、焦点回廊。酒気を熱に変換する魔法のため、ミトは融合前に浴びるように酒を呑む。

赤ノ妃龍(アカノヒリュウ)


虹、赤ノ妃龍(アカノヒリュウ)。空中を高速で移動する機動力、盾のクロイツ、シルトツヴァイが誇る7つの盾(7つの多種多様な結界を発生させる盾の魔法、7thボルト)の数枚を容易く粉砕する火力を併せ持つ。さらに多少の損傷であれば瞬時に自己修復してしまう防御力を誇る。攻撃方法は腕を超高速でしならせる連撃と、エネルギーを物質化した超火力の爆弾。

虹とは天空に君臨し地上を見下ろす7体のロボットの総称。色鮮やかな7色(赤、橙、黄、緑、青、藍、紫)の機体であることから虹と呼ばれ、地上を蹂躙するロボット達の頂点に位置する存在。頂点に位置する虹を破壊することで全てのロボットは活動を停止すると考えられているが、虹は天空を飛行し地上には降りてこないため、虹と直接戦うにはそれぞれの虹が管轄するエリアの炉を33%以上消滅させる必要がある。

戦闘型ロボット


人類の抹殺を主に担当する上位機種の戦闘型ロボット(名称なし)。ロボットには階級があり、一番下に位置する偵察型のロボットであれば月鉱石弾の砲撃で破壊することが可能である。しかし、1つ上の戦闘型機種は月鉱石弾をバリアで弾き、人類の力では破壊することが出来ないため、遭遇したら逃げるしかない。虹だけでなく戦闘型機種ですら人類には荷が重く、対抗できるのはクロイツのみとなる。また上位ロボットは単純な機動力や攻撃力が高いだけでなく、判断能力(コンピューターの性能)も合わせて高くなっている。

作画


現代的で綺麗な絵柄です。シリアスな部分での美しさは勿論、崩した絵にも魅力があり、コメディ部分も可愛く表現されています。感情表現は豊かに描かれ、機微の部分も丁寧に描かれているので、人物の作画で不足を感じることはありません。


反面、クロイツとロボットの作画はちょっと違う評価となるかもしれません。所謂、ロボット畑から出てきた絵ではなく、バトル漫画などでよく見るタイプの絵(構図)であるため、紹介に使う画像を選ぶのが非常に大変でした。一枚一枚のカットはロボットやクロイツのデザインを見せることを意識しておらず、動きを見せることを重視しています(勿論一枚絵タイプのカットもあります)。そのため全体像であったり細かいデザインは、全てを連続して見ることでわかるようになています。一般的なロボット漫画テイストの絵を求めて読むとカルチャーギャップに近い感覚があるでしょう。


その上でになりますが、作品によくあっているため個人的には全く問題だとは思いません。しっかりと自身の画風に合わせて描かれており、ちぐはぐさがなく読みやすいので、好印象を受けました。クロイツのデザインが生物的(というかほぼ生物)であることもそうだし、虹も既存の延長線ではなく作品から滲み出したようなデザインであることからも、よく馴染んでいます。

雑感

話の作りが抜群に上手い。シリアス8、ギャグ2ぐらいの割合で空気を緩めすぎず締めすぎず、最後まで程よい緊張感とスピード感で物語が展開されます。物語の本筋は一本道に近いながらも伏線の配置が巧みで、物語がどこに向かうか読ませません。次から次へと予想を裏切りながらも奇を衒い過ぎた感じもさせないので、鼻につく感じも全くありません。

驚きの展開(ちゃぶ台返し)を繰り返されて白けてしまう作品もありますが、展開自体は驚きの連続でありながら消化の仕方は一本調子ではなく、剛柔使い分けられ、新鮮な読み味を最後まで保ち続けます。とにかく作りの上手さがとことん際立っています。

抜群の物語と質の高い作画、つまり名作です。本作はマテリアル・パズルシリーズの外伝作品という立ち位置になりますが、シリーズを知らなくても楽しめます。実際に自分は本作以外のシリーズを読んでおらず、土塚理弘さんが関わっている作品はバンブーブレードしか読んだことがありませんでしたが(面白かったです)、それでも十分、十二分に楽しめました。作中の中で本編に繋がると思われる描写もありますが、本作の物語からの脱線と感じる部分は殆どありませんので、知らなくても全く問題ありません。本作だけで綺麗な物語となっています。

全9巻と長編ではなく中編ぐらいの長さ且つシリーズということも殆ど気にしなくていいので気軽に手にとって楽しんでください。

作品データ

マテリアル・パズル ゼロクロイツ
作/土塚理弘 画/吉岡公威
スクウェア・エニックス ガンガンコミックス 2009/3 ~ 全9巻
マテリアル・パズルシリーズの第0部となる作品







65

表紙と外部リンク

マテリアル・パズル ゼロクロイツ 1
2009年2月発売
電子版1巻リンク(出版社が講談社に移っています)
https://www.amazon.co.jp/dp/B07CG5J29Y
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 2
2009年6月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 3
2009年11月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 4
2010年5月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 5
2010年11月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 6
2011年3月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 7
2011年6月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 8
2011年11月発売
マテリアル・パズル ゼロクロイツ 9
2012年5月発売

余談

本作のロボット要素について補足で書かせてもらいたいと思います。

本作は現状では近似リストの方に振っています。これまでは主人公側のクロイツをロボット要素と認識せず、敵側のロボット(こちらは作中でもロボットと呼称されています)のみをロボットとして判定していました。その場合巨大○、搭乗×、外観△、戦闘○、比率△、頻度◎で総合値は46となるので(小数点以下は切り捨てで計算しています)数値上は近似リストになります。

それを今回クロイツをロボットと認識し、搭乗を○としたので結果総合値は上述したように65となります。外観についてはロボット?という感じなんですけど、搭乗しているという事実が大きく、怪物や化物と表されるデザインながら一応ロボットと捉えて判定しても問題ないかと今回判定を改めました。

もう一つ余談。後日、本編のマテリアル・パズルを読みました。結論としては先にこちらを読んでも全く問題ないです。どちらから先に読んでも楽しめます。

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