フルメタル・パニック!アナザー 【漫画版】

漫画感想記1冊目

かなめと宗介、そしてミスリルの仲間が立ち向かったあの戦いから十数年――。陣代高校三年生の市之瀬達哉は、AS乗りの少女アデリーナと出逢い、大きく運命を変えることに…。SFアクションの最高峰でありライトノベルの金字塔「フルメタル・パニック!」の新シリーズをコミック化!【1巻裏表紙より引用】

登場人物

市之瀬達哉


陣代高校に通う三年生、市之瀬達哉(イチノセ タツヤ)。進学はせず、零細企業の親の会社、市之瀬建設に就職を決めたが、PMCのD.O.M.S.が関わる事件に巻き込まれ、偶発的に見せたAS(アーム・スレイブ)操縦の腕をD.O.M.S.社長、メリッサ・マオに認められたことでD.O.M.S.の傭兵となる。小さい頃よりスレイブ式の重機を扱っていたため、ASの操縦技術に優れるが、性格や考え方は一般的な高校生なために日常と戦場の違いに苦しむ。年上の女性に惚れやすいものの、同年代の女性の気持ちには疎い。

アデリーナ


アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤ。通称はアデリーナ、愛称はリーナ。幼い頃より戦場に身を置いていたため、戦場における判断は完成している。またASの操縦技術も優れる。お目付け役として達哉と接するうちに様々な感情の変化が起こり、年相応の女の子の面を見せるようになるが、同時に自身の変化に戸惑うことになる。用意された様々な衣装を状況に応じて着こなすなど堅物ではなく、軍事、ことASが関わると饒舌になる。

ユースフ


ユースフ・ビン・ムハンマド・ビン・カリーヌ・アル・ケートリ。通称はユースフ。ラシッド国の王子で、専用の装飾を施されたASに乗る。達哉とは初遭遇時に模擬戦でいざこざをおこし、さらに両者の立場の違いもあってかことあるごとに反目し合う。(作中の描写では不明瞭だが)兄がおり、王位継承権は下位であるため、己の武を磨くことで軍から国を支えたいと考える。傲慢な面はあるが志の高い性格をしており、同時に仲間思いでもある。

三条菊乃


凄腕のテロリスト、ステファン・イリイチ・ミハイロフと行動をともにする少女、三条菊乃(サンジョウ キクノ)。彼女もまたテロリストであり、ブレイズ・レイヴンを狙い弟の旭(アキラ)と奇襲を仕掛けるが、失敗し返り討ちに遭う。作戦は失敗したが、その際に見せた達哉の力に恋をし、初めて(の殺し)を捧げる相手と決める。戦闘狂だが大切な人に初めてを捧げたいがために、トドメは共に行動をする旭の役目となっている。

ロボット要素

シャドウ


D.O.M.S.が所有するAS、シャドウ。ASは既存の兵器より、遥かに機敏に軽やかに柔軟に動けるが、装甲は薄く戦車砲の直撃を耐えられないなど明確な欠点も併せ持つ。集団運用が前提となっており、運用するには組織全体に高い練度が求められる。シャドウは基本性能が高く、クセがないため、AS乗り素人の達哉にも扱いやすいASとなっている。

AS-1 ブレイズ・レイヴン


日本国産の第三世代AS、AS-1。本来は11式主従機士の名で日の目を見るはずであったが、達哉も巻き込まれた事件の影響で計画が白紙になってしまう。その後、実戦での運用データを求める日本国の議員によって、密かにD.O.M.S.に託され、素性を隠すため、ブレイズ・レイヴンと新たに名付けられた。基本性能はそれほど高くないが、肩部に装備されたアジャイル・スラスタを用いた空中戦、高機動戦は他のASには真似できない代物である。主武装は腰に佩いた日本刀状の単分子カッター。

セプター


菊乃と旭が駆るAS、セプター。本来、第三世代のASとは運動性に優れた設計がなされるのだが、セプターは装甲の厚さと火力を重視した重厚な設計となっている。旭のセプターはミサイルやガトリングガンなど遠距離戦用の武装をメインとし、菊乃は近距離戦用の単分子カッターをメイン武装とする。

作画


本作のロボット要素、ASの作画は最初から上手い。止まった状態、動きのある状態、双方よく描かれています。


人物の作画も悪くないです。序盤は堅さが見られますが、物語の進みとともに違和感はなくなり、魅力となっていきます。


強いて作画の問題点をあげるなら、ロボットのアクションシーンではごちゃつきが感じられます。迫力はあるものの、把握が難しいカットもあるので、ロボット漫画を読み慣れている人でも戸惑う部分かもしれません。ですが、作画の全体的な満足度は高いので、不満を感じるものではないはずです。

雑感

本作は完全に原作の既読者向けの作品です。この場合の原作というのは、フルメタル・パニック!の無印と、小説版フルメタル・パニック!アナザーの両作を指します。本作は大本の無印とアナザーの小説版を全て読むことで楽しめる作品です。自分は無印を小説と漫画の両方で楽しんでいたので、本作に出てくる無印とのつながりを説明がなくとも理解できましたが、説明がないのは些か不親切に思います。また、本作の原作であるアナザー小説版は読んでいないので、本作で物語を追うことはできたものの、感情移入して楽しめたかというとかなり微妙なところです。無印に関する説明の欠如、物語を進めることを急いだがための描写の欠如、この2つの欠如は本作の大きな欠点だと思います。

他にも気になった点が多くあります。一番大きなところでは話の区切りがわかりづらいことです。作中での時間経過がどれほどかわかりませんが、殆どの事件が連続して描かれていて、一拍おくタイミングがわかりにくいです。原作の小説はおそらく事件ごとに区切って刊行されていると思われるのですが、漫画版でも同じように明確な区切りというのを設けてほしかったです。作者さんや編集者さんにとっては些細な違いでしょうけれども、自分にとってはわりと重要なことで、間の部分で思考を切り替えて新たに楽しもうとするものです。一応念のために補足しておくと、区切り自体は存在しています。ただ、その区切りというのが、人物紹介のページを1枚挟んだだけのもので、かなり味気なく、最初は区切りだと気付きませんでした。

今度は先程とは逆の意味で気になった点ですが、5巻終わりから6巻始めで話が急に飛んで、明確すぎるぐらいにぶつぎりになっています。さっきは明確に区切ってくれと書きましたが、今度は逆に明確に区切らないでくれと書きたい。1ページの説明を挟んでしんみりから急にハイテンションに進められても付いていける器用な人は限られているはずです。もっと間の部分を書いてくれないと続けて読むのがキツイです。

逆と書きはしたものの、本質は同じです。間の部分が描かれていないので、切り替わりが唐突に感じるし、区切りが見当たらないのです。感情の揺れ動きをもっと身近に感じたいのに、遠くの物語となってしまっています。

不満点は以上です。勘違いしてほしくないのは、この感想記は不満を並べ立てるものではありません。そして、本作がつまらない作品であったり、しょうもない作品だったかというとそうではありません。ボタンの掛け違いをした惜しい作品でした。惜しい作品だからこそ、これだけの不満が書けてしまいます。魅力がない作品ではこれほど語れませんし、語ろうとも思いません。

自分が原作を読んでいればきっと楽しめた思わせるだけの質があります。感情移入こそできませんでしたが、人物にも物語にも確かな魅力を感じていました。ただ、もっと描いてくれてさえいれば漫画だけでも純粋に楽しめたのに、と惜しいのです。

作画の質はかなりのものだし、テンポもいいので、原作既読者であれば思い返すように楽しめる作品だと思います。本作の真価というべきか、ターゲットはフルメタシリーズのヘビーファンなのでしょう。否定的なことを並べてしまいましたが、原作小説未読で文句を書く事自体がお門違いである可能性が非常に高いです、申し訳ありません。小説版の後に本作を読んでいれば全く違った感想になっていたかもしれないです。

作品データ

フルメタル・パニック!アナザー
たいち庸
角川書店 角川コミックス・エース 2012/3 ~ 全6巻
フルメタル・パニック! 続編の小説を漫画化した作品
本作は続編のフルメタル・パニック!アナザーΣに続く







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表紙と外部リンク

フルメタル・パニック! アナザー 1
2012年3月発売
フルメタル・パニック! アナザー 2
2012年8月発売
フルメタル・パニック! アナザー 3
2013年2月発売
フルメタル・パニック! アナザー 4
2013年7月発売
フルメタル・パニック! アナザー 5
2013年12月発売
フルメタル・パニック! アナザー 6
2014年8月発売

余談

以下余談を書かせてもらいます。あくまで漫画版を読んでの感想ですが、アナザー自体に中途半端さを感じました。フルメタは結構好きな作品ではありますが、熱狂度は低く、普通に面白い作品程度に思っていました。そんな自分から見ると、アナザーは無印にあった魅力の一つが減っているので平凡に感じます。その一つが何かというとギャップです。

無印の魅力といえば戦闘のプロである相良宗介が学生として学校に通うことにあります。学生としての常識が欠けているので日常に笑いが生まれ、戦闘では学校と違ったプロの顔を見せることで非日常に魅力が生まれていました。つまり宗介自身がギャップであり、フルメタという作品そのものが大きなギャップを常に抱え魅力的なものとなりました。それだけにギャップが解消される話では読んでいてかなりの寂しさを覚えたことを今でも憶えていますし、フルメタすげえなと思ったものです。

このアナザーはどうでしょうか。主人公はちょっとASの操縦の腕は良いものの普通の高校生です。学校は日常でしか無く、戦場は非日常でしかありません。ギャップがどこにもないのです。それでつまらないというわけではありません。フルメタ世界の掘り下げという意味では凄く大きな作品だと思います。ただ、最初に書いたとおり自分はフルメタのヘビーなファンではないので、物足りないのです。フルメタの世界観の掘り下げという意味ではフルメタでなくてはなりませんが、あのフルメタだけが持っていた空気を伴っていないのでフルメタである必然性を感じず、よくできたミリタリーモノの一つになっていると感じます。というしょうもない愚痴でした。余談の部分は作品の評価とは関係ないので余談に書かせてもらいました。

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