DOLLMASTER 彷徨の六花

漫画感想記42冊目

降り注ぐ雪(六花)は、美しいものも、そうでないものも等しく覆い隠します。そして、自らが溶け消え去るとき全ての罪をその身の内に蓄え、それを購おうとしているのかもしれません。人が犯した罪とそれによって生まれた傷。それらは人が真実を見つめようとする意思と歩みによって、癒されることでしょう。雪と違い、人は罪と共に消え去ることはありません。しかし、その傷と向き合いそれを受け入れることは、人に背負わされた業であり、人にしかできないものなのです。 【巻冒頭より引用】

登場人物

黄華

西京の街に暮らす少年、黄華(オウカ)。西京は異人の多い街で、黄華は白髪というだけで異人かぶれだと難癖をつけられ、女性的な顔立ちで泣きやすいことから軍人からも罵倒されてしまう。現在は義姉の紅葉(クレハ)との二人暮らしだが、西京の乱が起こるまでは兄の蒼久(アオヒサ)も共に暮らしていた。蒼久は西京の蒼(ソウ)と名を馳せ、西京の街を守る外人部隊からは英雄視され、教科書にも載るほどの人物であった。しかし、6年前に起こった西京の乱で真っ白なガンドールに討ち取られ、帰らぬ人となってしまう。義姉の紅葉に顔付きが似ているようで、女装した姿は6年前の紅葉にそっくりとのこと。

紅葉

黄華の義姉、紅葉(クレハ)。歓楽街にある酒場、オルメールで働くコンパニオン。仕事柄派手な服装でいることが多い。蒼久と恋仲にあったため、蒼久の遺言で現在は黄華とともに暮らす。黄華に甘えがちでお店に送ってもらうこともある。今でも蒼久の事が忘れられず、(命を奪った組織と思われる)新政府の軍人に苦手意識を持つ。

OCHAZU

アルテピノーザの第三皇女、OCHAZU姫。王国歴960年代に大臣のクーデターによって王族と王族に味方する者たちの多くが暗殺され、大臣の傀儡として13歳で即位。王座に就く。奇行が目立つため気が触れていると噂されるが、身分に関係なく別け隔てなく接するため、地位の低い者からの人気は高い。奇行は大臣の目を欺くためともされるが、大臣から渡された薬によって精神に異常をきたしている可能性が高い。西京の乱では信頼する外人部隊を直轄の白薔薇騎士団を率いて自ら討ったとされる。

ゼフィラ

白薔薇騎士団の見習い、ゼフィラ。階級は少尉。白薔薇騎士団の団員はドールマスターの称号を持つ物の中から選抜されるが、見習い騎士のゼフィラは操縦技術も未熟なだけでなく、お嬢様なためか精神的にも未熟。使用人のいない生活に不満を漏らしたり、亜人や移民の者への抵抗感を見せた際には先輩騎士に窘められる。見習い期間であるため、現在は罪狩りのカルバと行動を共にする。

ロボット要素

セイブザクイーン

白薔薇騎士団専用のガンドール(GD)、セイブザクイーン。右腕にあしらわれた部隊章は白薔薇騎士団(ROYAL WHITE ROSE CARDS)のもの。アルテピノーザ第三王女を警護するため、前女王の遺産を元手に予算は度外視で開発された。理想的とされる人間に近い外観を持ち、性能は既存のGDを大きく上回り、飛行形態への変形機構も有する。少数生産機であるため細部は各機で異なり、追加装備を取り付けることも可能。下半身に多数のマニューバーを搭載したことで細かい動きを実現する。その特異な技術体系によって専門の整備士以外では修理すら困難を極める。整備マニュアルは分厚い本何冊にも及び、一流の整備士たちが羽の修理すら不可能であった。また、頭部は極めて精密であるため、外部の者に触らせることはない。

エニグマドール

戦車を小型化した機械、エニグマドール。西京にある学校では実戦に慣れるための練習教材として使われる。大きさは人の半分ほどであるが、内蔵火器を搭載している。AIで動くものの、人の命令を優先して動くものと思われる。

黄華の元にはゆにすけという名のエニグマドールがいる。紅葉が働く店のマスターから蒼久の遺品を渡され、遺品の中にゆにすけが入っていた。6年前の騒ぎの影響で珍しいとされる970年製のエニグマドールとのこと。6年間も眠りについていたため、現在の黄華と紅葉を成長した姿だと認識できず、黄華に冷たい態度を取ってしまう。しかし、女装した黄華は紅葉と勘違いするので、紅葉に会えたと大喜びする。

メタルビート

外人部隊のために作られたガンドール、メタルビート。顔が付いた不思議な戦車。GDに犬族など亜人が乗ることは難しいとされるが、亜人の多い外人部隊に王女から贈られ、搭乗者の多くは亜人が務める。西京の乱では王女と敵対する立場となってしまったが、移民を暖かく迎えてくれた王族への敬愛の念は薄れていない。西京の乱で戦力を大きく減らして尚、王族のため、国のためにあろうとする。

余談。メタルビートの名称は彷徨の六花には出てこず、泣き虫ボー太の方で使われている名称です。

作画

前作は頭身の低いロリ体型のキャラが多くいましたが、今作はバランスがかなり良くなっています。身体にメリハリも付いているので、癖は強い絵柄ながらも受け入れやすいのではないでしょうか。個人的にはかなり好きです。

メカの作画は相変わらず上手く、デザインの質含めて一層スケールアップした感があります。本作には戦闘シーンがないため、そこは物足りないかもしれません。

本作も前作同様に設定資料ありきの作りをしており、設定資料は多めに収録されています。

雑感

前回に引き続きDOLLMASTERシリーズ2作目について書いていきます。前作は煩雑な作りだったことから物語の流れを掴むことに苦労しましたが、本作はそれ以上に苦労しました。苦労したというよりは掴めなかったと言い切れるレベルです。

作品の舞台はアルテピノーザ歴(王国歴)で980年と思われ(確定できない)、6年前に起こった西京の乱にスポットを当てる作りとなっています。現在と6年前が頻繁に交わるため、目の前の物語が現在の話なのか、過去の話なのか判別できない場面もあります。また、前作同様に視点の切り替わりが多いために、理解することがより難しくなっています。そして、重要な部分はぼかされているので、本当によくわからない。結局物語が大きく動く前に終わってしまっているし、もやもやが強く残ります。山場が来る前に終わる様は、DOLLMASTERシリーズの伝統なのでしょうか。

本作は1巻と数字が振られていながら、2巻が出ていない作品です。Amazonなどネット上では2巻の情報も出てきますが、実際には出ていません。調べてみると連載分のストックはかなりあるみたいですけど出ていません。

本作はよくわからない作品ですが、ポテンシャルは感じます。それだけに2巻が出ていないのが勿体無い。1巻だけでは起承転結の起も終わっていません。面白くなりそうな世界観や設定を紹介したことによる、期待感だけで終わっている作品です。

物語の面白さを求める一般的な漫画好きには全くオススメできない作品ですが、本作の価値は別のところにあります。本作の一番の魅力はメカデザイン。セイブザクイーンの存在です。セイブザクイーンはロボット漫画史に残るであろう素晴らしいデザインをしています。なんといってもエレガンス。美しい。かわいい。カッコいい。セイブザクイーンを眺めているだけで十分楽しめます。AOZのウーンドウォートが寄木細工の美しさだとしたら、セイブザクイーンは無垢の彫像。デザインに共通する部分はあってもベクトルは全く別方向なので、是非セイブザクイーンを堪能してほしい。そして、堪能するためには次回紹介する作品が必須と言えるので、次回を楽しみにしてください。

作品データ

DOLLMASTER 彷徨の六花
藤岡建機
ジャイブ CR COMICS DX 2008/4 全1巻
DOLLMASTERシリーズ第2作
各ネットサイトに2巻の情報が載っているが出版された事実はない




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75

表紙と外部リンク

DOLLMASTER 彷徨の六花 1
2008年4月発売

余談(ネタバレ注意)

わからない事が多かったのでメモ代わりに色々書いていきます。

大臣のクーデター時の王位のありかがわからない。資料の方では蒼穹の翼にも出てきた王様が王位に就いていたとされるけど、作中では女王とされているよね。そして、女王は眼鏡が落ちていたことからリユルを指していて、リユルの死を暗示しているっぽい。そして、ビストは選考会で殺されたから出てこないとかかな。殺したのはライバック。戦争好きの大臣はアムニの部長とかにすれば話はつながる。

カルバの正体。これはよくわからない。ビストの父親だとしたら雰囲気的に若すぎる気もする。さっきはビストが死んだと書いたけど、カルバの名を名乗るビストとかどうだろう。性格は違うけど、老成したビストと考えれば無理はない気もする。いや、無理か。

西京の乱。イマイチわからん。内乱を避けるために自ら討つって愚策だと思うんだけど。時系列が把握しにくいこともあってOCHAZU女王の考えがよくわからん。大臣から贈られた薬を拒否するのが西京軍を討った後だとしたらおかしいんですよね。西京軍を討った段階で残された方法は臣従以外にありえません。西京の乱自体の情報が何重にも捻じ曲げられている気もするし、本当に全くわからない。女王が討ったという情報が事実であるなら、西京軍に重大な欠陥があったか、それ以外の選択肢としては、女王は当時から気が触れていて、誤った命令を下してしまったという可能性くらいかな。大臣に反旗を翻すなら味方を討つというのは愚策中の愚策。内乱が起ころうと侵略されようと今後機を活かすことができなくなる。

そして、もう一つ気になったのがカルバと船長の会話。現在進行系で侵略を受けているってことになるのかな? それとも過去の話なのかな。現在進行系なら大臣が動かないのが不思議。戦争大好きなら大義名分を得て動くチャンスだよね。それとも、最初から他国の謀臣だったのか。先の話になるけど泣き虫ボー太で国が堕ちているっぽいから大臣の動きは伏線なのかな。あと、オブシディ党の話が単行本になっていないので大臣の行動原理がよくわからないのだよね。

DOLLMASTERシリーズを語る上で障害になるのは単行本になっていないエピソードが多すぎるということです。

・彷徨の六花 連載分
・黒曜石の瞳 丸々
・兎族を描いた短編(多分単話)
・泣き虫ボー太とPAL 連載分

全部で単行本2~3冊分はあるんじゃないかな。連載していた雑誌は現在では入手が難しそうなので、読んで確認するのはちょっと無理そうです。上に書いただけでなく、まだまだ多くの疑問が残っているのに確認できないのは残念。

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