サイドボーン

漫画感想記44冊目

武術道場を装った謎の組織“蓮華堂(れんがどう)”からの脱走を試みる少女・黒鐘(くろがね)リンと幼なじみのあすな。二人の脱走の危機に首都復興機構の笛吹(ふぶき)と名乗る男が、あすなを超人兵器(サイドボーン)に変身させた。西暦2005年、壮大な戦いが幕を開ける。 【1巻裏表紙より引用】

登場人物

あすな

総合格闘技道場、蓮華堂で武術を学ぶ少年、あすな。実の両親を知らず、幼少の頃より蓮華堂で育てられ、蓮華流武闘術の一つである、苛斬剣(かざんけん)の使い手となる。過去の出来事から幼なじみのリンを守りたいと想うが、失敗が多く逆に助けられてしまう。リンの計画に賛同し共に脱走を図るが、サイドロイドの襲撃に遭い、リンを守る力、サイドボーンへの変身を遂げる。

黒鐘リン

蓮華堂総裁の娘、黒鐘(クロガネ)リン。15歳。蓮華流武闘術の一つ、凱輪拳(がいりんけん)の使い手。HAMELN(ハーメルン)を名乗る者からの手紙で総裁が拾の父親でないことを知らされ、実の父親に会うため蓮華堂を抜け出そうと画策する。当初は一人で抜け出そうとしていたが、信頼を寄せるあすなにのみ計画を明かしたことで協力を得られる。勝ち気な性格であるが、自分のことよりあすなのことを心配し、過酷な状況でも前を向こうとするひたむきさを持つ。

笛吹一哉

総合格闘技ガイドの記者、笛吹一哉(フブキ カズヤ)。雑誌記者というのは表の顔で、蓮華堂と敵対する組織、首都構に属する人物。首都構の組織概要は不明だが国家機関とのこと。HAMELNという偽名を名乗り、リンに蓮華堂の外の情報や、蓮華堂内に存在しなかったリンの子供の頃の写真を送り、蓮華堂を脱走するよう仕向け、雑誌記者として蓮華堂内に潜入を果たすと共に脱走を図る。リンだけでなくあすなにも事前に目をつけており、脱走の戦力とするため、サイドボーンに変身するための起動弾丸を打ち込む。また、覚悟の決まらないあすなに対して憎まれ役を演じ、発破をかけてまで決意を促す。

黒鐘総裁

蓮華堂の総裁、黒鐘。蓮華堂とは北海道の山中に存在する格闘技の道場で、蓮華堂の道生は(総合格闘技の?)公式戦で47戦全勝と無類の強さを誇る。表向きはただの武道場であるが、裏ではサイバロイドという機械の兵士や、16歳を過ぎた道生を闇の仕事を請け負う戦闘集団、戦華(いくさば)に仕立て上げる。黒鐘はリンの父親を名乗るが、親子の情などなく、リンの体に隠された秘密にのみ興味を示す。

ロボット要素

サイドボーン

戦闘兵器、サイドボーン(SIDE-BORN'E)。あらゆる状況に対するために作られた究極戦闘兵器とされる。装甲は極めて強固。プレスウェポンという機能を使い、肋骨を腕部の装甲内で加工して作り変えることで剣、プレスブレードを生成可能。サイドボーンはそれ自体が強力な兵器であるが、あすなの持つ技、苛斬剣と組み合わさることでより強力となる。蓮華堂の主力兵器であるサイドロイドを上回る性能を持つが、サイドボーン状態を維持するために体力と精神力を著しく消費する。また、大きな副作用も存在する模様。サイドボーンへの変身には左手の掌に起動弾丸を撃つ必要があり、起動弾丸を撃ち込むことで機械の背骨が体表面へと浮き上がり、機械の背骨から全身を覆うように装甲が展開される。二度目以降は左手に起動弾丸を打ち込み、スパイン・アップの掛け声で変身を行う。変身の際はとんでもない激痛が伴うようで、あすなは強い躊躇いを見せる。

凱輪王

十五神王(じゅうごしんのう)の一体、凱輪王(がいりんおう)。15人の武芸者が蓮華堂の創設者とされ、蓮華堂には15体の御神体が祀られる。御神体はただの偽装でしかなく、中に戦闘用兵器、サイドロイドが眠る。サイドロイトは人間の命令を第一優先としながらAIで動く。凱輪王は敵を切断する円輪剣(えんりんけん)、動きを封じる士張輪(しばりわ)の使い手。円輪剣はM-チタンという強力な素材で作られている。必殺技は上空から円輪を叩きつける天空円舞。その他に肩部装甲内にも攻撃用の輪状の兵器が存在する。

新月王

夜の覇王、月下の狩人の二つ名を持つサイドロイド、新月王(しんげつおう)。追跡能力が高く、夜間戦闘が得意な暗殺の達人。手首内部にガトリング砲を内蔵。頭部のとさかは弓となり、頭部からせり出した矢に特殊な回転を加え自在に曲がる(ホーミングする)、魔装弓(まそうきゅう)を放つ。必殺技は体内に蓄えた矢を同時に番えて放つ、魔弓雨陣(まきゅううじん)。魔弓雨陣を使うためには体内にある屋をすべて出す必要があり、そのために自ら頭部を切り落とす。

サイドロイドは凱輪王、新月王以外にも撃鉄王、水霊王などが存在する。サイドロイドは蓮華堂に伝わる戦華の戦法を取り入れており、破壊することの砕、焼き尽くす事の炎、敵を妖(あや)かす事の妖の三大原理から、更に細かく分かれた流派ごとの特性を各機は備える。

作画

強い特徴のある絵柄です。特に女性キャラは肉感が強く出ています。

また、魅せ方にも強いこだわりを感じられます。わざわざセンシティブなアングルで描かれているカットも複数あり、特にお尻の描写に力が入っていることが絵面を通じて伝わってきます。

見せ方の話につながりますが、アクションの部分でもこだわりは活きています。バトル漫画の華であるアクションはしっかりと派手に、それでいて読みやすさは損なわれていません。

雑感

主人公がサイボーグ、敵がAI型のロボットという部分を除けばバトルマンガそのもの。強い敵が現れて、強い敵に勝つために主人公がさらに強い力を手に入れて、敵味方それぞれの思惑が渦巻くことで物語が出来ています。厳しい表現をすればありきたりなわけですが、ポジティブな味方をすれば王道な作品と言えるでしょう。王道を皮肉に捉える表向きもありますが、一定の面白さを保証する褒め言葉だと思います。

本作にも一定の面白さがあり、バトル漫画として及第点の完成度を誇っています。ただし、その面白さは2巻までです。本作は全3巻で3巻の内半分は別の短編が掲載されているので、全2.5巻とも表現ができ、3巻掲載分は展開が大味になっています。打ち切りのやるせなさというものが作品から伝わってきます。

結局のところ打ち切り作品で未完であるため、物語中の謎の殆どが判明しません。そのため、読後感も良くないし、オススメ出来る作品ではないのですが、魅力の無い作品ではありません。ちゃんと続いて、ちゃんと最後まで描かれていれば一定の評価を得られた作品だと思います。

作品データ

サイドボーン
三条陸
林崎文博
集英社 ジャンプ・コミックス 1998/6 ~ 全3巻
3巻目の半分は別作品(作者さんの短編作品2本収録)
↓の判定表巨大の項目について。カットによっては大きく見えるけど大きくないと判断。

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表紙と外部リンク

サイドボーン 1
1998年6月発売
サイドボーン 2
1998年10月発売
サイドボーン 3
1999年5月発売

余談

短い余談です。

しっかりと物語が完結して名作の評価を得ているバトル漫画が多いなか、今という時代に敢えて本作を選ぶ人はいないでしょう。しかし、本作には明確なおすすめポイントが存在します。色気の部分はかなり頑張っています。いちいちフェティシズムに溢れており、こだわりの強さは情熱的に感じられるはずです。今の時代から見ても感じられるものはあるのではないでしょうか。

本作の良くない点もちょっと書きます。あくまで個人的な好みの話となりますが、サイドボーンのデザインが好きではありません。自分が変身ヒーローにときめかないタイプなのでそう感じるだけかもしれませんが、戦闘が派手な割に地味な気がしました。あと、リンの顔が可愛く見えるカットだけでなく、ちょっと野暮く見えてしまうカットがあったりと安定感に欠けます(どちらも魅力はあったけど)。それと、あからさまに女性の描き方が強みだから、もっと女性を前に出してくれた方が嬉しかった。作画の項目で使った画像の女性キャラが目立つのは3巻(つまり終盤)からだし、リンも話の中心ではあるけど、戦闘では目立たないので、強みを活かしきれていなかった印象です。

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