DOLLMASTER 蒼穹の翼

漫画感想記41冊目

アルテピノーザ王国は秋を迎え、金色の畑の上、空はどこまでも蒼かった。空の青さが果てしないように、少年の希望もまた限りがない。そして一人の少年の物語がいま始まる。 【冒頭より引用】

登場人物

ヘンリ・ビストロ・カルバンJr.

サンセットスパロー号のパイロット、ヘンリ・ビストロ・カルバンJr.。通称、ビスト。父親のカルバ・ヘンリ・ビストロは、ガンドール部隊、カルバ・東雲(しののめ)・スコードロンを率い、寡兵を持って17日もの間敵軍を撃退し続けた伝説的存在。この戦いで多くのパイロットが亡くなり、ビストの父親であるカルバもその一人であった。カルバ・東雲・スコードロンの隊員はドールマスターの称号が与えられ、死んだ隊員にも追贈された。父親を亡くしたビストは町工場の空力(クーリー)精機で妹のカノコと整備士として働きつつ、父親と同じようなガンドールのパイロットになることを夢見る。幸運からサンセットスパロー号のパイロットになると、銃といった武器をもたせてもらえないことに不満を漏らすが、ドールマスターの称号を持つ、ルスカ・レイヨルド少佐の操縦を目の辺りにし、己の戦い方を見出す。

リルル

無鉄砲な少女、リルル。ガンドールの次期主力機を決める選考会に向かう途中で車が故障し、立ち往生していたところをビストに助けられる。荷物を取るために火の中に飛び込みビストを困らせるなど、危機感が著しく欠ける。浮世離れした性格は正体に関係しており、本当の名は、リユル・ユルジュム。ガンドールの技術で周辺国を圧倒する、アルテピノーザ王国の王女である。アルテピノーザ王国では、ガンドール本来の役割である国民の手足に戻したい王室側と、単純に戦闘力を求める軍部で対立しており、町工場まで巻き込んでの次期主力機を決める選考会は王室側による意向が大きいとされる。

ミンスク

選考会の取材に訪れた箱葉通信者の記者、ミンスク。派手なガンドールの戦いが見たかったため、武器も持たず逃げ回るビストの戦い方を笑う。口喧嘩をしたビストの負け姿を楽しみに、その後も取材を続ける。

ライバック

巨大軍需企業アムニ社のパイロット、ライバック。パイロットとしては優秀なようだが、精神的に未熟で人間性に大きな問題を抱える。しかし、アムニ社自体がクズの集まりであるため居心地は良い模様。

テストパイロット

空力精機が雇おうとしていた、テストパイロット。当初は空力精機のパイロットになることに前向きであったが、ビストの妹であるカノコが反対し、カノコの悪辣な工作によって追い出される。その後、空力精機の対戦相手である藤岡重機に雇われる。藤岡重機の方が金払いも良かったとのこと。

ロボット要素

サンセットスパロー号

町工場の空力精機が開発したガンドール、サンセットスパロー(夕日の雀)号。通称、SS(SUNSET SPALLOW)。ガンドール(GD)とは銃を持つ人形のことで、元はモトドール(モータードール、MD)と呼ばれ、工業や農業に使われる作業用の原動機人形であった。しかし、その優れた技術でアルテピノーザ王国が繁栄すると、他国からの侵略を受け、武装化したモトドールで撃退した過去を持つ。現在のガンドールは戦闘力を上げることに心血を注いで開発されるが、空力精機の親方はSSを戦闘用ではなく、人助けのためのガンドールとして作り、次期主力機を決める選考会に送り出す。SSには目新しい技術は使われていないが、町工場集団の技術の粋が集められ、パーツ一つ一つの精度が高く、極めて頑丈な作りになっている。見た目に反し動きは素早く、細かくしなやかな動きも可能。固定武装はなく、ビストは旗一つで戦う。選考会は甲、乙、丙の3つにランク分けされ、SSは丙に属し、総当たりのリーグ戦を勝ち抜くと甲乙の機体と戦える。

ハイウェイスター号

アムニ社のガンドール、ハイウェイスター号。スピードに優れるだけでなく、変形機構を有する珍しいガンドール。反面、装甲が薄いなどの弱点を併せ持つ模様。模擬戦で問題を引き起こし、結果的に多くのガンドールを失わせることになる。

IZAHAYA-1

藤岡重機のガンドール、IZAHAYA-1。重量に任せた打撃技を得意とし、ウインチワイヤーでハンマーを飛ばして攻撃する。空力精機が雇おうとしていた人物がパイロットを務める。

作画

AOZで知られる藤岡建機さんの作品ということで、メカデザインと作画には素晴らしいものがあります。絵柄の影響で若干読みにくさはありますが、漫画的な表現もふんだんに取り込まれており、動きの部分まで作画で表現されています。

キャラの作画にも強いクセがあります。頭身が高いキャラもいますが、多くのキャラは頭身が低く、子供っぽさが強く出ています。

設定資料が掲載されています。メカの資料だけでなくキャラや世界観の資料も豊富にあります。

雑感

絵柄やキャラデザからキャッチーな作品と思われるかもしれませんが、かなり難解な作品です。物語自体は複雑ではなくシンプルです。しかし、世界観や設定の説明は少なく、視点もあちこちと動くので煩雑に感じますし、理解が中々追いつきません。

本作は設定資料を多く収録しており、この資料に世界観の説明や設定が多く書かれ、漫画に出てこない情報も載っています。漫画だけではよくわからない部分も資料を読めば納得できるので、本作をちゃんと楽しむには資料を読むのが必須と言える作りになっています。

しかし、理解したとしても物語は弱いし、作りがごちゃついていることには変わりありません。大して見せ場のないキャラが尺を使っていたり、全体を俯瞰してみると、物語の序盤だけが描かれ、物語の山場に辿り着く前に終わった作品に感じられます。

DOLLMASTERの名を冠した作品は本作の他に2冊あります。その2作品を読めば本作の続きが読めるかというと、読めませんし、顛末もわかりません。つまり、本作の印象が変わることはありません。深い部分で繋がりはあるものの、あくまで一本ずつ独立した作品になっています。DOLLMASTERシリーズとは虫食いだらけの年表のようなものです。

次回、次々回とDOLLMASTERシリーズを続けて扱います。本作は純粋な漫画としての完成度は高くないと思いますが、DOLLMASTERシリーズには別ベクトルの魅力があります。DOLLMASTERシリーズの真髄というものを次回紹介できるはずなので、楽しみにしてください。

作品データ

DOLLMASTER 蒼穹の翼
藤岡建機
エンターブレイン マジキューコミックス 2006/2 全1巻
DOLLMASTERシリーズの第1作
1996~97年にRPGマガジンで連載された作品とのこと







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表紙と外部リンク

藤岡建機作品集 DOLLMASTER 蒼穹の翼
2006年2月発売
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