六神合体ゴッドマーズ 十七歳の伝説 【小説版】

小説感想記12.5冊目

ギシン星の科学長官イデア家に産まれた双子の兄弟マーグとマーズ。ふたりは生まれもった超能力のために、悲運という名の生を奔る。宇宙制覇を目論む皇帝ズールの命により、弟マーズは反陽子爆弾をその体に埋め込まれ、ギシン星からの独立を計る地球へと送られる。一方、兄マーグは、非業の死を遂げた両親のために逆徒(ゲリラ)としてズール軍勢に反旗を翻す。が、強大なるズールの魔手の前に、ふたりは生死をかけた闘いに導かれ、悪夢の如き絵図を描いていく。地球とギシン星との攻防に呑まれ華ひらいた一瞬の運命と光芒。マーグとマーズ、離別から十六年。この時、宇宙は儚くも優しく、そして悲しき伝説を生んだ――。【角川版そでより引用】

登場人物

マーグ

運命の少年、マーグ。1982年6月16日、ギシン星の科学長官イデアを父に、母をアイーダに、双子の兄として生まれる。生まれたばかりながらギシン星の皇帝ズールはギシン星の運命を背負う子と称する。生後間もなく弟のマーズと引き離されたことで、物心がつく頃には弟に会えないことを嘆き、弟の顔を知らないことを悲しむ。父親のイデアが銃殺刑に処される前に記憶を移したため、年齢以上に聡明であり、年月を経るにつれて記憶も鮮明になる。

アイーダ

運命の子らの母、アイーダ。イデアが宇宙の星々の平和を願ってガイヤーを完成させたのと時を同じくして、双子を出産する。心優しい夫と慶事が重なったことを喜び合うが、生まれた子はどちらも生まれつき超能力の素養を強く持っていたため、ズール皇帝の命により双子の弟、マーズを奪われてしまう。マーズを連れ戻すよう嘆願書を出し続け、赤子のマーグを抱えながら片道5km以上ある皇宮へ向かい嘆願を行う。嘆願活動は10年以上の歳月欠かすことなく行われた。

ルルウ

美しき少女、ルルウ。超能力者ウーラの娘で、母親は5年前にズールの掃討隊によって射殺された。山の生活に不慣れなマーグの世話役となり、格闘訓練では相手を務めるが、その実力はマーグを大きく上回る。本来はとても優しい少女なため、鳥もよく懐き、修行場を離れればマーグの姉や母代わりとなり支える。神経を張り詰めているためか、12歳という年以上の雰囲気を醸す。

ウーラ

超能力者の老爺、ウーラ。強力な超能力を使い市民を助ける。求心力の高さからズールは恐れ、掃討隊を編成してまで執拗に命を狙う。幼い頃のマーグと面識があり、一見しただけで彼が背負うことになる十字架の重さを見抜く。ズールの部下による独断で謀殺されかけたマーグを助け、銀河の命運を背負うにふさわしい者になるように超能力を授け、自ら鍛える。ズールの掌中から逃れるため険しい山岳地帯に篭り、慕い集まる者たちを厳しく鍛え、来る刻を待つ。

ロボット要素

ガイヤー

平和利用のために作られたロボット、ガイヤー。地球の宇宙進出を危惧したズールの命により、平和利用のための反陽子エネルギーは反陽子爆弾に変えられ、地球に送られる。製作者のイデアは宇宙の星々の平和のために作り上げたが、自らの手で悪魔の使者と化し、搭乗者は生まれたばかりの息子という悪夢を見ることになる。搭乗者のマーズが死んでしまった場合も反陽子爆弾が爆発してしまうことから、マーズを守るためイデアは自らの命を懸けて5つの守り神を共に送り出す。

イラスト

本作はアニメージュ文庫版と角川版の2つの版があります。訳あって両方とも所持していますので、それぞれのイラストについて書いていきます。

まず、アニメージュ文庫版について。イラストは各話の扉絵と目次のイラストのみです。各話の扉絵はマーグのバストアップがメインで、アイーダを除く主要キャラのイラストはありません。マーグやアイーダの紹介に使った画像を見てもらえるとわかる通り、(キャラデザのわかる)簡素なイラストになっています。また、小説とは別にマーズとマーグのTVアニメ版のカットが48ページ分収録されています。

続いて角川版。こちらの版は小説パートにイラストが付いていません。しかしながら、小説とは別にOVA版のカットが16ページ分収録されています。画像のゴッドマーズやガイヤ―とウーラの紹介に使った画像がそうなります(グレスケにしていますが元はカラーです)。流石OVA版だけあって一枚絵としてみてもかなりのクオリティです。

小説単体で見るとどちらの版もイラストの部分は物足りません。しかしながら、短編ということもあるのと、文章の質も本編から高まっているので、イラストがなくても困ることはないです。

雑感

本作は六神合体ゴッドマーズの外伝作品になります。以前に本編の小説版の感想も書いていますのでよければそちらもどうぞ。

六神合体ゴッドマーズ 【小説版】

1999年、地球の宇宙進出に対して、ギシン星のズールは警告を発してきた。時同じく明神(みょうじん)タケルの身にも異変が生じた。ズールの地球爆破命令を拒否したタケルはギシン星の超能力者に襲われるが、なぜか彼も超能力を使うことができたのだ。自分の出生に疑問を抱くタケル。そして彼を守る…

小説の部分についての感想だけを書きます。

本作はマーグの誕生直後から本編でマーグが登場するまでの話となっています。アニメージュ文庫版では70ページ程度ということで文量的には大したことがありません。しかし、内容的には素晴らしい作品でありました。

彼の生まれから成長する過程が書かれ、彼の人生がどれだけ激動で、どれだけ鮮烈であったかが感じられます。また、文章の質も本編よりも高まっているため、物語も劇的になっています。

内容的には前日譚でありますが、短編だからといって軽いタイプの作品ではないので、本編を見るなり読むなりした後のほうが楽しみやすい作品だと思います。爽やかなキャラクターをしていながらこんな事があったのかとギャップの部分で楽しめます。本編との若干の矛盾はあるように感じられますし、矛盾させないためのご都合も感じられますが、本編が楽しめたなら間違いなく楽しめます。本編を引き立て際立たせる作品になっているので、本編と併せて読んでほしい作品です。

作品データ

六神合体ゴッドマーズ 十七歳の伝説
藤川桂介
本橋秀之
徳間書店 アニメージュ文庫 1982年12月 全1巻
角川書店 角川文庫 1988年5月 全1巻
本編の前日譚
アニメージュ文庫版イラスト8枚(小説掲載部分と表紙を含めた枚数)

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表紙と外部リンク

六神合体ゴッドマーズ 十七歳の伝説
1982年12月発売
十七歳の伝説
1988年5月発売

余談

本稿の中では角川版についてさらっと書いていますが、実は書いてる途中に調べるまで存在に気づいていませんでした。そもそもアニメージュ文庫版以外が存在しているとは考えてもいませんでした。本編の方はコバルト文庫オンリーなはずなので、外伝だけが他所からも出ているなんて普通は思わないはずです(自分の調査不足です)。

そして、角川版について調べてみるとかなり加筆されているとの情報を見つけました。アニメージュ文庫版はアニメのカット48ページと小説80ページの128ページで構成されており、角川版はAmazonの登録データでは123ページになっています。ページ数だけで見れば殆ど同じですが、アニメのカットが収録されていないのであれば50ページ近い追加となるわけです。これは買ってみるしかないとなりますよね。

結果

結論から先に書くと、アニメージュ文庫版を持っている人は買う必要がないです。詳細な理由も折角なので書いていきます。

角川版にはOVA版のカットが16ページ収録されていることはイラストの項で説明しましたね。この段階で123ページから16ページ減ったと思われると思いますが、減っていません。アニメのカットにはノンブルが振られておらず、小説のページだけで123ページまでノンブルが振られています。つまり、小説は123ページあるわけです(あとがき含む)。

しかし、ページの上部にノンブルの下に2cm分くらいの大きな空白があり、更に行間のスペースも若干大きくなっています。その結果、内容は殆ど追加されていないにもかかわらずページ数だけが大幅に増えています。

なんでこんなふうになっているのだろうと考えてみると、本作はそもそも70ページ近い作品なので、物理的に薄っぺらいです。角川版もOVAのカットを使って頑張ってページ数を増やしているけど、それでも物理的に薄っぺらいです。背表紙に文字を入れる関係や書店に並べるときの関係で、ページ数を増やして多少でも分厚くしようとしたのではないでしょうか。まぁ、気持ちはわかりますよね。

話を戻して、角川版の加筆について。加筆されている部分はあります。あとがきにはプロローグとエピローグに追加したと書かれているので確認しました(本文はペラペラ捲って確認した限りでは変更なし)。プロローグはマーズ側のダイジェスト的な文章が追加され、エピローグはマーグの人生を元に読者への薫陶的な文章が増量されています。正直なところ本編を読んでいれば蛇足ですし、追加された文量自体も本当に少ないです。ですので、小説を楽しむだけならどちらかの版で十分ではないでしょうか。イラストについてはアニメージュ文庫版だと多少ありますが、アニメのカット的にはOVA版が収録されている角川版のほうが見どころがあるのと、物語の流れがわかる丁寧なキャプションも付いています(お約束ですが見るのは読み終えてからの方が良いです)。

余談の余談

冒頭のあらすじについて。感想記を書く際は毎回あらすじを付けています。付いていない場合は自作しますし、付いている場合は引用させてもらっていますが、今回引用したあらすじは二つの意味で凄いです。

まず、本編の内容と食い違っています。地球はギシン星の支配下というわけではないですよね。そして、人間のマーズ(タケル)自体には反陽子爆弾は埋め込まれていないよね。あと、紹介としては本作品より先の物語の部分がメインになっているのも気になります。

あらすじとしてはどうなのよって感じですが、文章としては凄い好き。なに、このカッコいい言葉のチョイスは。悲運という名の生を奔る、なんて普通は出てこないでしょう。攻防と光芒を掛けていたり、締めの文章もいいし、ここまで掴みの良いあらすじ文は見たことがなかったので、書き写していて痺れるものがありました。

はい、どうでもいい余談でした。お付き合いありがとうございました。

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